ROEは短期の利益を追い求める投資家のための指標だと思っている経営者は多い。しかしこれは「絶望的事実誤認」だと中神康議氏は指摘する。そうではなく、高いROEを長期間続けていけば、経営者、従業員および投資家がそろって豊かになれるというが、これはどういうことか。
2021年3月19日に開催され、大好評のうちに終わったセミナー「三位一体の経営で、失われた30年を取り戻す」の内容を特別に公開する。(構成:上村晃大)

なぜ株主はすぐ「ROE」と口にするのか中神康議(なかがみ・やすのり)
みさき投資株式会社 代表取締役社長
慶応義塾大学経済学部卒業。カリフォルニア大学バークレー校経営学修士(MBA)。20年弱にわたり幅広い業種の経営コンサルティングに取り組んだ後、2005年に投資助言会社を設立。2013年にみさき投資を設立し、現職。著書に『経営者・従業員・投資家がみなで豊かになる三位一体の経営』(ダイヤモンド社)、『投資される経営 売買される経営』(日経BP)など。

「複利」を理解する者は豊かになり、
そうでない者はお金を手放す

中神康議(以下、中神) まず、どうすればみなが豊かになれるのかを理解していきたいと思います。豊かになるとは、当然ながら、そんなに簡単なことではありません。このような難しい問題に出会ったときは、私は人類最高の英知の話を参考にするようにしています。

 人類の最高英知と呼ばれる人はたくさんいましたが、アインシュタインを超える人はなかなかいないと思います。彼はかつて、みなで豊かになる方法について話したことがあります。

 その方法とは、「複利」です。複利を理解する人は豊かになれるが、理解しない人はお金を手放す。これが彼の言葉です。複利は「人類八番目の不思議」とも。いずれにしても、この複利効果こそが、安定的な高リターンの源泉だと言っているのです。

 アインシュタインと比べると多少格は落ちると思いますが、投資業界では最高の英知と言われているウォーレン・バフェットという人がいます。彼は常に、自分の脇に「複利表」というものを置いているそうです(図表9)。

なぜ株主はすぐ「ROE」と口にするのか図表9

 仮に今、100万円を投資したとします。それが年率4%で回る資産だった場合、10年後、20年後、30年後にいくらになるでしょうか。年率8%で回る資産だった場合、10年後、20年後、30年後にいくらになるでしょうか。そういうことをこの表は表しています。

 年率4%と年率8%ではあまり変わらないと思えるかもしれません。しかし30年という長期になると、年率4%で回すと元手は3倍になるのに対し、年率8%で回すと元手は10倍になります。バフェットは、複利で長期投資をする場合、少しの利回りの差が大変大きな額の差になるということを常に自分に戒めているのですね。彼もアインシュタインと同じく、複利効果こそが安定的な高リターンの源泉なのだと言っているのです。