岸田首相と昭和時代の「所得倍増計画」、決定的な違いとはPhoto:Pool/gettyimages

岸田政権は分配をより重視し、令和版所得倍増計画を打ち出している。が、本当にわが国経済は回復過程を歩めるのだろうか。1960年に池田内閣が所得倍増計画を発表した当時、わが国経済は高度成長期にあった。需要は供給を上回っていた。しかし現在、わが国の需要は供給を下回っている。4~6月期の需要不足は年換算した金額ベースで約22兆円(マイナス3.9%の需給ギャップ)だ。分配だけで所得を増やすのは難しい。(法政大学大学院教授 真壁昭夫)

構造改革で潜在成長率を引き上げ
経済のパイを大きくするべき

 10月4日、岸田新政権が発足した。岸田首相は「新自由主義からの転換」を進めて、「新しい資本主義」を目指すとしている。その中でも、「令和版所得倍増計画」に取り組むとの考え方は注目される。

 岸田首相の経済政策の重要なポイントは「分配の重視」といえるだろう。その背景には、小泉政権以降の新自由主義の発想に基づく経済運営が、わが国の経済的な格差を拡大させたとの認識があるようだ。

 ただ、経済的な富の分配だけで、国民の所得を倍増することは難しい。むしろ、構造改革を進めて経済の実力である潜在成長率を引き上げ、経済のパイを大きくすることを考えるべきだ。わが国経済の拡大なくして、成長と分配の好循環を目指すことは難しい。どう経済成長を実現するか、新政権が詳細を示していないことは気がかりだ。

 中国や欧米諸国の政府は、半導体や脱炭素などの先端分野で補助金などのバックアップを充実させて、国を挙げて新しい経済分野を育成することを実施している。それによって、自国での生産を増やして雇用を生み出し、経済成長を実現しようとしている。そうした世界経済のゲームチェンジが加速する中、岸田政権は規制改革などを徹底して実施し、経済の実力を高めなければならない。その可否が中長期的なわが国経済の実力に影響する。