脱炭素地獄#16Photo:Olemedia/gettyimages

日本のエネルギー基本計画に「水素」の二文字が盛り込まれたのは2014年のこと。直後にトヨタ自動車は水素で動く燃料電池車を発売したが、当時の水素革命は不発に終わった。そして今回、再び水素エネルギーが脚光を浴びている。協議会メンバーは1年足らずで253社・団体に激増。中でも水素にご執心なのが3メガバンクの一角、三井住友フィナンシャルグループだ。特集『脱炭素地獄』の#16では、水素を巡る企業の思惑を探った。(ダイヤモンド編集部副編集長 浅島亮子)

「水素寄せ集め団体」の会員数が
1年足らずで88社から253社へ激増!

 パナソニック家電部門の城下町、滋賀県草津市――。この地に、三井住友銀行役員を含むメガバンク関係者が視察に訪れている。

 お目当ては、世界初となる「水素を本格活用した自家発電システム」だ。水素を使って発電する純水素型燃料電池と太陽電池を組み合わせた「自家発電設備」と、余剰電力を蓄える「リチウムイオン蓄電池」をセットにしたシステムを導入し、2022年春から実証実験を行う予定になっている。こうすることで、工場で使う電力を100%再生可能エネルギーで賄えるようにしようという壮大な取り組みだ。

 純水素型燃料電池は、パナソニックが09年に参入した家庭向け燃料電池システム「エネファーム」の技術を応用したものだ。そして、今回の実験の舞台となるのはエネファーム製造工場である。

 パナソニック関係者は「銀行マンは、水素エネルギーについて本当によく勉強している」と舌を巻く。その上で「パナソニックのシステム導入に興味を示している“顧客企業候補”に興味があるようだった」(同)と打ち明ける。

 実は、このシステムは電子部品メーカーからの引き合いが非常に強いという。

 製造業では、工場で使う電力の再エネ化が喫緊の課題だ。すでに、米アップルをはじめとするグローバル先進企業は化石燃料由来の“汚い電気”で作られた製品をサプライチェーンから締め出す方針を鮮明にしている。そのため、このままでは日本の電子部品メーカーはグローバルな環境先進企業に部品を納入できなくなってしまうのだ。

 現状では、電力会社から購入する電気と比べて「水素発電」の電力コストは高く、全く太刀打ちできない。それでも、電子部品メーカーにとってみれば電力の再エネ化は必須条件。将来の選択肢として検討できるのかどうか、パナソニックの技術に大注目している。

 そしてメガバンクは、このように水素エネルギー活用を検討している企業を“有望な投融資先”として物色しているようだ。特に、3メガバンクの一角である三井住友フィナンシャルグループ(FG)の鼻息は荒い。

 昨年12月、東京・丸の内にある三井住友銀行本店では、水素の一大イベントが開催されていた。水素バリューチェーン推進協議会(JH2A)の決起集会である。

 今、JH2Aは勢い付いている。わずか1年足らずで、会員企業数は発足当初の88社から253社・団体(大学などを含む)まで激増した。JH2Aのある会員企業幹部によれば、「企業取りまとめの音頭をとったのが、三井住友FGの國部(毅会長)さんだった」という。

 日本の水素社会の先駆者といえば、14年に初代の燃料電池車(FCV)である「ミライ」を世に送り出したトヨタ自動車の専売特許のはず。トヨタ以上に三井住友FGが、水素にご執心なのはなぜなのか。