日の丸半導体「逆襲」の突破口になるか?ナノインプリント技術とは写真はイメージです Photo:PIXTA

わが国の経済はかなり厳しい状況を迎えている。過去30年間わが国の平均給与は増えず、20年は前年比0.8%減の433万円だった。問われているのは、わが国経済全体での実力の発揮だ。自動車を除き、わが国には世界の需要を獲得できる最終製品が見当たらない。利益率が低いため、海外勢に比べて本邦企業の設備投資額は見劣りする。その状況下、官主導ではなく、民間企業主導のコンソーシアムによるナノインプリント技術は、新しい製造技術の創出によって世界の需要を獲得する突破口になる可能性を秘める。(法政大学大学院教授 真壁昭夫)

キオクシア(旧東芝メモリ)とキヤノン
大日本印刷の「ナノインプリント」とは

 わが国半導体メーカーのキオクシア(旧東芝メモリ)とキヤノン、大日本印刷がコンソーシアムを組んで、「ナノインプリント」と呼ばれる半導体回路形成の新しい技術の実用化を目指している。この技術は、ハンコを押すようにして半導体回路を形成するもので、より効率的な半導体の生産を可能にすると期待される。その新しい技術によって、かつて世界のトップに立っていた日本の半導体業界が、再び、世界市場で上位に入ることを目指している。この技術を期待通りに開花させることができれば、日の丸半導体の「逆襲」も実現可能と期待が高まっている。

 ナノインプリントの取り組みに関しては民間企業主導ではあるものの、政府が経済安全保障などの観点から半導体関連産業への支援を強化することにも注目した。主要先進国の産業政策は、市場競争を重視したものから、必要に応じて市場に介入し、新しい需要創出を支援するものにシフトしている。経済安全保障面で重要性が高まる最先端の半導体製造技術は、その象徴的な分野だ。

 今後、最先端の半導体製造技術の開発や関連市場シェアを巡って、日本・米国・中国・台湾・韓国の競争は一段と苛烈さを増す。わが国経済に必要なことは、民間企業のアニマルスピリットを最大限に発揮し、それを政府が資金面を中心にしっかりとサポートすることだ。それができれば、わが国の半導体関連産業が世界的な競争力を取り戻すことは可能だろう。楽観はできないが、わが国経済の総力挙げての逆襲を何とか期待したいものだ。