黒田東彦・日銀総裁10月28日、金融政策決定会合後に記者会見する黒田東彦・日本銀行総裁 Photo:JIJI

原油や資源の価格高騰と円安が同時進行することで、輸入コスト増加を招く「悪い円安」に関する議論が活発化している。しかし日本銀行は当面、為替相場に対するスタンスを変えることはないとみられ、「円安阻止」に動くことも当面ないだろう。その理由は三つある。そして、その理由の中には、日銀が「バズーカ金融緩和」の出口に向かう際の急所が見え隠れしている。(東短リサーチ代表取締役社長 加藤 出)

日本経済の「円安依存」が続けば
日本人は永遠に豊かになれない

「現時点で若干の円安ですけれども、これがなにか悪い円安ですとか、日本経済にとってマイナスということはないと思います」「今進んだ若干の円安は相互的に見てプラスであることは確実だと思います」

 日本銀行の黒田東彦総裁は10月28日の記者会見でそう述べた。2013年にアベノミクスの中心的な政策として開始された日銀の「バズーカ金融緩和」は、事実上の円安誘導(または円高回避)の役割を担いながら2%のインフレ目標の実現を目指してやってきた。

 円の実効実質為替レート(国際決済銀行〈BIS〉集計)は、アベノミクス開始前年の12年9月から今年9月にかけて30%も減価した。しかしながらこの間、円安で収益が向上した日本の輸出産業が国内労働者の賃金をしっかりと引き上げることはなかった。デジタル化や自動車の電動化など競争環境が大きく変化していくこの時代に、自信を持って賃上げを行える企業経営者は残念ながら日本には少ない。

 その結果、輸出産業から他の産業へのトリクルダウン効果(大企業から利益が溢れて、中小企業や個人にしたたり落ちる現象)は生じず、日本国民の対外購買力はこの9年で低下してしまった(2000年初に比べると、円の実効実質為替レートは44%も下落している)。仮にこの先もグローバルなサプライチェーンの混乱や資源価格の高騰が続き、そこにさらなる円安が重なる場合は、生活コストの上昇に苦しむ国民が増えてくる恐れがある。

 今この瞬間を切り取るならば、「円安の方が日経平均株価は上昇する」という説明は確かに可能である。しかし、それはわが国の産業構造の変革が遅々として進んでいないことの表れでもある。円安に頼り続けなければならない場合は、日本人は永遠に豊かになれないだろう。

 スウェーデン中央銀行は18年12月にマイナス金利政策を解除した。国民の不満に加え、企業の多くも同政策の弊害に強く批判的だったことが影響した。デジタルトランスフォーメーション(DX)が進み、旧来型の輸出産業への依存度が低下している経済においては、自国通貨安に諸手を挙げて喜ぶ風潮は見られない。ちなみに18年末からこの10月末にかけての株価指数の上昇率は、スウェーデンのOMXストックホルム・ベンチマーク指数は90%だが、日本の東証株価指数(TOPIX)は34%である。

 とはいえ、目先の議論でいえば、日銀の為替相場に対するスタンスに当面大きな変化は表れないだろうと予想している。主な理由は次の三つだ。