企業の可能性を引き出すデザインの可能性とはPhoto by ASAMI MAKURA

「経営にデザインの視点を取り入れることが重要だ」とは昨今よく言われるものの、製品やサービスならまだしも、デザインが経営にどう影響を及ぼすのか、ピンとこない向きも多いだろう。ロッテの「キシリトールガム」や「明治おいしい牛乳」の商品パッケージなど、誰もが知っている商品のデザインや、数々の企業ブランディングを手掛けてきた佐藤卓氏に、企業価値を上げることにデザインがどう役立つのか、また、デザイナーと経営者・社員との対話によって何が生み出されるかを聞いた。(聞き手/音なぎ省一郎、構成/フリーライター 江口絵理)

経営とデザインがつながると何が起きるのか

――デザインを経営の中核に据える企業が日本でも増えつつある一方で、どうもデザインと経営が結び付かないという経営者の方のお話も耳にします。企業から相談を受ける側であるデザイナーとして、最近の傾向をどのように見られていますか。

 世の中のほとんどの方は、デザインとは「物の見た目をかっこよく整えること」だと思っていますよね。しかしこれは大きな誤解で、家の中のどこに机を置くか考えることもデザインだし、何かの計画をすること、新たな商品を生み出すこと、自分の会社の在り方を考えることもデザインなのです。

 例えば、コーポレートアイデンティティー(CI)の策定とは、会社の在り方をデザインの力で具体的な言葉やマークなどの形に表し、その理念を共有することです。実はこのところ、中小企業の経営者の方から、会社が成長してきて次のステップへと進めようというタイミングでCI導入についてご相談を受けることが増えています。経営の世界でデザインへの理解が深まり、関心が高まっていることを感じます。

 むしろ一般社会ではまだまだデザインへの誤解が大きく、日常生活の全てにデザインが関わっていることがなかなか理解されにくい。やはり子どものうちにそういう目を育むことが必要だと思って作り始めたのが、Eテレ(NHK)の「デザインあ」というテレビ番組でした。棚の上にある何の変哲もない箱にも、そのような姿や機能になった背景や意図が必ずある。そういう目で日常生活を見てほしいという思いで作っています。

――2018年に経済産業省・特許庁が中心となって「『デザイン経営』宣言」が出されました。デザイン経営とは「デザインを企業価値向上のための重要な経営資源として活⽤する経営のこと」と定義されていますが、デザインは企業価値を上げることにどう貢献するとお考えでしょうか。

 今の時代、情報は山ほど入手できます。誰もが大量の情報を集め、処理・分析する能力を持てる。そのような時代にあって、市場調査や統計の上で誰もが正しいと思うようなことを、そのままやっていても企業は競争力を維持できないでしょう。重要なのは、「正しいこと」ではなく「その先を作ること」です。先を作るのに必要なものはアイデアで、デザインが得意としているのは、アイデアを具現化して社会に実装することなんです。

 デザイン経営を体現していたのがスティーブ・ジョブズです。ジョブズは「こんなコンピューターがあったら世界が一変するはずだ!」というアイデアからスタートしました。ジョブズは市場調査の数字を分析した結果ではなく、自分のアイデアを具現化してMacintoshを生み出した。デザインと経営が一体化していたんです。