『進化思考』の著者が説く、経営者が良きデザイナーであるべき理由Photo by ASAMI MAKURA

「デザインと経営」は、本来切っても切れない関係だが、日本企業においては長く分断されてきた。それを改めて統合し、ビジネス全体をリ・デザインしなければならないと説くのが、建築、プロダクト、グラフィック、ソーシャルなど、領域を超えて幅広いデザインを手がけるNOSIGNER代表の太刀川英輔氏だ。創造という人間特有の営みを生物の進化になぞらえて鮮やかに解説した『進化思考』の著者として、多様なビジョン創造に携わってきたデザインストラテジストとして、経営者とデザイナー双方にとっての課題を聞いた。(聞き手/音なぎ省一郎、構成/フリーライター 小林直美)

あらゆるイノベーションが
デザインドリブンで生まれる時代

――歴史あるデザイン団体「日本インダストリアルデザイン協会(JIDA)」の理事長に、最年少で就任されました。

太刀川 ご推薦を受けてのことなので自分から「旧世代に風穴を開けてやる!」と意気込んだわけではないのですが、いまになって、世代交代や若返りへの期待の大きさを実感しています。私はこれまで、建築、プロダクト、グラフィック、政策提言など、さまざまな領域での活動を通じて、領域を溶かしつつ、デザイナーとしての職能がいかに企業や社会のビジョンづくりに役立つかを示してきました。そんな私が、JIDAのような日本で最も歴史あるデザイン団体の理事長を継承すること自体が組織からの強いメッセージになっているように思います。

――これまでも産業のリ・デザインの必要性についてたびたび言及されていますね。

太刀川 デジタルシフトの後で生まれた新興企業では、時価総額の高い企業ほどデザインドリブンな経営が当たり前になっています。日本にいるとピンときませんが、世界ではスタートアップカルチャーとクリエイティブカルチャーは、もうほぼ同じといっていい。イノベーションを強く牽引しているのはクリエイティブ人材なのです。

 そもそも、新しいモノや文化との最初の接点って、憧れる体験だったり、押しやすいボタンだったり、可愛いアイコンだったり、魅力的なブランド名だったりしますよね。これらの接点は、まさにデザインによって生み出されるものです。さらに「それらを統合して企業やブランドのキャラクターをいかに体現するか」を考えるのもデザインです。会社の体面ですから、どう見ても経営者がやらなくちゃいけない仕事ですよね。

 にもかかわらず、これまでデザインは経営から分断されてきました。エンジニアリングやマーケティングと切り離されたデザイン部に「この製品を包むやつ考えて」みたいな指示が来る。全体としてどんな印象を与えるか、どんなUXを設計するかという議論を飛ばして、パッケージみたいな局所に矮小化されてきたのです。

 しかし、デザインで部分的にきれいなパッチを当てるだけでは本質的な価値は生まれません。全体のスタイリングを見ずに「指輪だけゴージャス」「ジャケットだけ超クール」にしても、ちぐはぐなだけです。経営者はデザインについての考え方を改めないといけないし、デザイナーも領域を取り払って経営を理解してなくてはいけません。