連載タイトルの「2.2坪」は、焼肉屋「六花界(ろっかかい)」の実面積。東京・神田駅の東口から徒歩30秒。飲食店がひしめくサラリーマンと金融の街「神田」のガード下に、2.2坪の焼肉店が生まれました。四畳半程度のスペースの中に、厨房もトイレも客席も全部ある、めちゃくちゃ狭いお店。「2.2坪? やめとき! 無理無理! そんな狭い飲食店ないもん!」……誰に話しても否定の言葉ばかり浴びせられる毎日。ところが、今や「狭さ」「不便さ」を逆手にとった戦略が注目を浴び、12年経った今でもTVやメディアで取り上げられ続けており、「和牛+和酒」「立ち食い焼肉」「知らない人と七輪共有」「タレ肉は出さない」などストーリーのある焼肉店として話題に!「私語禁止、撮影禁止、スマホ禁止」「SNS投稿禁止」「完全紹介制」「支払いではなくお月謝」「女性だけしか予約の取れないお店」「プロジェクションマッピングも活用した劇場型焼肉店(クロッサムモリタ)」など、誰も思いつかなかったようなオンリーワンなコンセプトで超予約困難店に! そんな食通たちをうならせている森田隼人の奇想天外な発想と経営哲学、生き方がわかる注目の1冊が、『2.2坪の魔法』。連載第1回は、著者の森田隼人氏にインタビューします。(構成・編集部 撮影・榊智朗)

もともと、その場所は「金券ショップ」だった

なぜ、今までにない「2.2坪」の激セマ立ち食い焼肉が<br />あたると思ったのですか?

──出版おめでとうございます。『2.2坪の魔法』を書こうと思われたきっかけをおしえてもらってもいいでしょうか。

森田 この本を書き始めたのは2019年、まだ新型コロナが蔓延する前でした。

飲食店は東京オリンピックを控え、これ以上にないほど活気づいていました。

しかし、すべての思惑は崩れ去りました。

新型コロナは人々の行動を制限し、とうとう緊急事態宣言が発出され、酒類販売までできなくなる状況が何ヵ月も続き、生産者を含めて、飲食店は極限状態を体験しました。食べることの意義、食事のあり方、食材の命、本当に見直すべき大切な時間を過ごす機会となりました。

そして飲食店を志した人間がたくさん辞めてしまった時期でもありました。

しかしそれは飲食店に限りません。

多方面に夢を描いていた方々がその夢を諦めた時期でもありました。

このコロナ禍の中、生き延びて成長できた飲食店は、決してデリバリーやテイクアウトを専門にした店だけではなく、お客様に支えられ、新しいことにチャレンジを続けた店です。

そして常に新しいことにチャレンジしていくという考えは、どんな時代でも変わらず必要だと思っています。

コロナに関わらず、自分はこれまでに飲食店において様々な改革を作ってきました。その視野や観点は技術の1つで、考え方1つで皆様にも新しい未来を切り開くことができる一助になると思っています。

作ってきた飲食店のこと、そのアイデアの秘密やそれを実現させる方法、そして普段からの習慣や思考法、お店ではお話ができない経営者の視点など、多岐にわたり書かせていただきました。

僕がただただ一貫して言いたいことは一つで、「なりたい未来に、まずは一歩踏み出してください!」ということです。

その思いに人は共感し、縁がつながっていき、人生に新たな可能性が生まれていくのだと僕は信じています。

だからこの著書で、これからどんなことでも挑戦をしようと思っている方々に、ぜひ伝えたいことがたくさん詰まった本がこの『2.2坪の魔法』です。

――ありがとうございます。『2.2坪の魔法』は、森田さんのそんな思いを端々に感じる一冊になっていると思います。ところで、タイトルの「2.2坪」というのは、森田さんの最初のお店「六花界」のお店の広さのことですよね。最初は、反対も多かったそうですね。

なぜ、今までにない「2.2坪」の激セマ立ち食い焼肉が<br />あたると思ったのですか?森田隼人(もりた・はやと)
1978年大阪府生まれ。大学卒業後、建築会社を経て25歳で国家資格を取得後、独立。デザイン事務所「m-crome」を設立。その後公務員を経て、2009年に東京・神田ガード下に「六花界」をオープン。「初花一家」「吟花」「五色桜」「TRYLIUM」等、出店した全てのレストランが多くのメディアに取り上げられ「肉と日本酒」文化を広めた。全店舗が予約が取れない名店となるばかりか、日本初となるプロジェクションマッピングを活用したレストラン「クロッサムモリタ」は建築家としても、クリエイターとしても、一つのエンターテインメントを確立した。さらには日本酒吟醸熟成肉(特許庁商標権取得済)等の調理技術も発明している。日本酒活動で功績が認められ「第12代酒サムライ」に叙任。世界初の移動式醸造発酵を考案し、「十輪~旅スル日本酒」は、オークション世界最高額である440万円の値段を記録した。また2020年農林水産大臣より「料理マスターズ」として顕彰。東京唯一の顕彰者として注目を浴びる。また、プロボクサーやモデル(ユニクロ等)の一面も持つマルチクリエイター。現在自身のブランドでのフランチャイズ展開を進めている。

森田 レストランは、厨房・客席がありトイレ・パントリーがあり、様々なパーティションを作ることでお店として成り立ちます。

特に焼肉は、お客様に火元の提供が必要で、他の業種よりも客席における一人当たりのスペースが多くなります。

2.2坪=4畳半、この畳のスペースの中に今伝えたすべてを詰め込んだのが「六花界」です。

きっと「ん?どこでお肉切るの?お客さんはどこで焼くの?何人入るの?」と、疑問だらけだと思いますが、僕の中では設計図ができていました。

けれども同じ想像を共有することは難しいことです。

世の中にないモデルスタイルだったので、僕のことを大切に思ってくれる人であればこそ、「お金をドブに捨てるようなものだ」ということで反対された過去もありました。実際100人いれば100人とも反対でした(笑)

――もともと、その場所は金券ショップだったそうですね。

森田 飲食店はほとんどのケースにおいて居抜き物件といって、飲食店がそのままできる状態で引き渡しをされるのですが、自分がやりたかった「立ち食い焼肉のプラン」は、従業員を雇わずに、いかにお客様と接点を持ちながらお料理を楽しんでいただけるかということにこだわっていました。

つまり、極力狭い店で営業をしたかったのですが、狭い店だと安いかというと、実は坪単価の家賃は10万円を軽く超えていました。

少し駅から離れれば、家賃はもう少し安くて広い店もあったのですが、自分にとってとても大切なのは、お客様が雨に濡れずに毎日でも通える立地であること

これがオープン前にできる最大のサービスだと考えていました。

それを考えたら、飲食店の居抜きではない、そもそも飲食店をやろうと思うと従業員を雇い利益の確保に努めなければいけないため、最低限ある程度の広さが必要なのですが、すべての無駄をそぎ落とした商売は意外と「金券ショップ」だと気づいたのです。

東京では駅前のほとんどの立地にある金券ショップですが、これで利益を出して成り立っているのであれば、買収しても飲食店は成立するはずだ!と考えたため金券ショップを買い取りました。

――なるほど、面白い発想ですね。金券ショップということは、もちろん厨房なんかなかったわけですね。

森田 長方形の店内にはカウンターが1つあって、両側の壁にはコンサートのチケットとか、新幹線の回数券とかが販売されていました。

当然ガスの設備もなくて、逆にこれが自分では「いける!」と思いました。

この場所では絶対に10年待っても飲食店をする人はいないだろうと思いました。

なので厨房もありませんでしたが、自分であればできることがあると考えて「六花界」を作り上げる決意をしたのです。

――なぜ、今までにない立ち食い焼肉があたると思ったのですか?それも極狭のお店が。

森田 焼肉は贅沢品です。

何かいいことがあったときに食べるのが焼肉です。その焼肉を普段から1人でも食べれるような環境を作りたかったんですが、そこに必要なものはコミュニケーション・プライス・イノベーティブの3つだと考えていました。

これは老舗を分析してみると、とてもわかりやすく、古く長く続いているお店こそ、お客様とのコミニュケーション、料金、何度来ても飽きさせないコンセプトの3拍子が揃っています。

長く続けるためにはどうすれば良いかということを考えた結果、立ち食い焼肉がヒットした形になりました。

とはいえ、当時なかったコンセプトの焼き肉店を作るのはかなり度胸が入りましたし、このイノベーションが受けられるかどうかはへ計算してはいましたが、結果的に人と人のつながりが1番大きかったと今となっては言い切れます。

やはり応援をしていただくためには自分が頑張っている姿を1人でも多くの方に見ていただいて、そして支えていただくことが商売の基本なのだなぁと思いました。

――1ヵ月後に満席って凄いですね。「六花界」に行ったことのない方に、「六花界」とはどんなお店なのか、少し説明いただいてもいいですか

森田 2.2坪なのですが、多い時は20人ぐらい入るんですよ。

当時はコロナ前だったので、ぎゅうぎゅうにお客様が入っていて、外にも溢れている状態でそれが連日何年間も続きました。

ここまで話せば少し興味を持っていただけたかもしれません。

もう少し「六花界」を知ってください。JR山手線神田駅から徒歩30秒、ガード下に両手を伸ばした位の小さな間口に奥行きは2メートルちょっと、金券ショップを改装したのが「六花界」です。

メニューは基本的に置いていません

お客様はその日に入っている牛肉の良いところを1000円分とか2000円分とかそんな感じで頼んでくださいます。

そこに合わせるのは僕が日本各地に出向いて勉強をさせていただいた酒蔵の日本酒。他の飲み物もございますが、まずは一度、試してみてください。

座席はありません。

立って食べる焼肉なので、勇気を出して中に入っていただいたら、お客様と一緒に七輪をシェアしながら焼肉を焼いて、その場にいる人たちと仲良くなりながら都会のバーベキューを楽しんでください。

牧場から直送なので、コストパフォーマンスも東京でトップレベルだと思いますし、味は間違いありません。

必ず驚かせますよ!

――森田さん。お話聞いていたら焼肉が食べたくなっていました(笑)次回はもっと詳しく、森田さんの経営哲学教えてください。今日はありがとうございました。