公正取引委員会Photo:PIXTA

「またか」なのか「そうだろうねぇ」なのか。厚生労働省所管の独立行政法人の医薬品入札で、医薬品卸に独占禁止法違反の疑いが浮上した。医療・医薬品業界関係者の感想は大別すれば2種類だ。前者の「またか」の思いは一般人の感覚に近く、医薬品卸との取引から関係の薄い部署に勤務する製薬企業社員である。後者の「そうだろうねぇ」は医薬品卸を担当する製薬企業社員や病院や調剤薬局などで医薬品購入と価格交渉を行う担当者の感想だ。後者の感覚は「いつどこで起きてもおかしくない」という業界の長年の取引慣行から発されるものである。つまり、常に談合と隣り合わせにあることを意味する。

医薬品入札のモデル

 医薬品業界に再び激震が走ったのは11月9日。公正取引委員会はアステム、メディパルホールディングス子会社のアトル、アルフレッサ、東邦HD子会社の九州東邦、スズケン子会社の翔薬、富田薬品(並びはアイウエオ順)の6社に対し、国立病院機構本部が実施した九州エリアの医薬品入札で談合した疑いがあるとして立入調査に入ったのである。

「深く反省し、胸に刻む」

 4カ月前の7月中旬、地域医療機能推進機構(ジェイコー)を舞台とする談合により、全国卸3社(アルフレッサ、スズケン、東邦薬品)の有罪判決の確定を受け、業界全体で再出発を誓ったばかり。対象となった企業も、公取委から課徴金納付命令は出ていないものの、新型コロナウイルス禍が下火となったことと合わせ、少しでも日常の事業活動に戻そうと動いていた矢先だった。

 舞台となったのは九州エリアの国立病院機構と労働者健康安全機構(労災病院)。医薬品入札に対しての談合疑惑である。10日時点で詳細な情報はなく、公取委による立ち入り調査の対象となった入札時期や金額規模はわからない。国病機構が直近6月に公告した医薬品入札の結果を踏まえると、問題となっている九州エリアで落札業者と結ぶ契約金額は、年間200億円以上に上るようだ。

 担当者が有罪判決を受け、医薬品業界が震え上がったジェイコー入札談合事件。公取委が刑事告発を目的とする「犯則調査」に入ったのは2年前の19年11月27日。だが、このときから囁かれていたのは「公取委の本丸は国病との取引ではないのか」だった。