決算書100本ノック! 2021冬#3Photo:Bloomberg/gettyimages

イオンがネットスーパーなどデジタル売上高を5年で14倍の1兆円に引き上げるという「大風呂敷」を広げた。いち早くデジタル化に挑んだ米小売りの巨人、ウォルマートは新店への投資を事実上「凍結」するなど大胆に設備投資の配分を見直した。イオンの投資はどうなるのか。特集『決算書100本ノック! 2021冬』(全16回)の#3では、両者の設備投資を独自に検証・比較し、イオンのデジタルシフトの成算を占う。(ダイヤモンド編集部編集委員 名古屋和希)

EC売上高「1兆円」へ大号令
「切り札」は巨大物流拠点

「デジタル売上高は1兆円とし、国内小売りでトップレベルの規模を目指す」(イオンの吉田昭夫社長)

 イオンは今年4月に公表した2021年度からの5カ年の中期経営計画で、野心的な目標をぶち上げた。野心的と形容したのには理由がある。実は、19年度のデジタル売上高は700億円ほど。つまり、5年間で14倍に伸ばす計画なのだ。

 計画達成の一つのカギとなるのが、千葉市内で現在、建設が急ピッチで進む巨大物流拠点である。23年に本格稼働を予定するこの拠点こそが、イオンのデジタル戦略の「切り札」ともいうべき存在だ。

 この拠点では、生鮮品や日用品など約5万品目を取り扱う。首都圏をカバーし、オンラインで受注し、商品を宅配する。イオンは現在、各店舗を拠点とする「店舗出荷型」でネットスーパーを運営しているが、新たに「倉庫出荷型」も取り入れることになる。

 新拠点の目玉となるのが最先端のテクノロジーだ。AIやロボットを活用し、24時間自動稼働する。例えば、ロボットはわずか6分で、膨大な商品の中から50個の商品をピックアップし、配送準備までを終える。イオンが19年に提携した英ネットスーパーのオカドのノウハウや技術が、高度なオペレーションを支える。

 イオンはこの第1号拠点への具体的な投資額を明らかにしていない。だが、今後、ほかのエリアにも同様の拠点を展開していくとみられ、デジタル関連の投資は膨らんでいく見通しだ。吉田社長は「デジタルへのシフトをより一層加速させる」と大号令を掛ける。

 イオンの21年3~8月期の営業収益は前年同期比1.7%増の4兆3449億円で過去最高となった。金融事業などの復調が業績をけん引したが、総合スーパー事業は162億円の営業赤字に沈んだ。デジタルシフトは事業基盤の再構築の命運を握る。

「デジタル売上高1兆円」は実現可能なのか。そこで、デジタルシフトの真っただ中にある米小売業の巨人、ウォルマートに着目。新店投資を事実上「凍結」し、デジタル投資に振り切ったウォルマートとイオンの投資戦略について、財務諸表をひもといて独自に検証・比較した。

 その結果、イオンの計画は「大風呂敷」を広げたにすぎず、野望達成のハードルの高さが浮き彫りになった。