問題は「意思決定力の圧倒的不足」!これからの管理職が生き残るための学びの形Illustration:村林タカノブ

今、「前例のない判断」ができる管理職が減っている。大企業においては、部署間の連携が煩雑であったり、変化を起こさなくても社会的地位を守れたりするため、その傾向はより顕著だという。
しかし、変化しつづけ、社会を生き抜くには、管理職自らも変わる必要があります。『大企業ハック大全』を出版した若手中堅の有志団体ONE JAPANで、「ミドル変革塾」を運営している凸版印刷・坂田氏、三越伊勢丹ホールディングス・額田氏、NHK・神原氏によると、そのため必要なのは、視点・視野・視座の3点のアップデートだという。同書より、「これからの管理職」に向けたメッセージをご紹介しよう。

いま組織に圧倒的に不足しているのは、「意思決定力」

 社会に大きな危機が訪れたとき、生き延びるために一番大切なことは「変化」であるはずです。しかし、リーマンショックや東日本大震災、そして新型コロナウイルスの危機をもってしても、必要に迫られたことだけしか変えられずにいる企業は多いのではないでしょうか。大企業においては、組織が細分化されて部署間の連携が煩雑なせいか、特にそうした傾向が強いように感じられます。

 変化を起こせない組織に共通するのは、「意思決定力」の圧倒的な不足です。

 意思決定とは、誰が・どんな役割で・いつまでに・どうすべきか、といった問いを作り、一つひとつに適切な仮説を構築し、実践していくことに他なりません。未知の事態を切り拓くためにはこの地道な作業を行う力が必要ですが、それをこなしていく力のあるリーダーが足りていません。

 そんな課題感を共有した私たち3人が、当事者としてONE JAPANで立ち上げたのが「ミドル変革塾」です。ターゲットは、自分たちと同世代である30、40代の若手管理職。やみくもに打席を増やすだけでなく、大胆かつ着実に結果を出すことが求められる、組織の行く末を決める要の人たちです

 プログラムは「学び」「実践」の2つに分けています。

「学び」のフェーズでは、同世代の傑出した次世代リーダーやすでに世界で活躍するリーダーを招いて、視座、戦略・変革、政治、社会、経済、技術、人・組織といった幅広いテーマで講義を行い、受講生同士で議論してもらいます。すると、知識だけでなく、講師や他の受講生の考え方もインプットされます。

 知識を身につければ視点が増え、考え方を知れば視野が広がります。視点と視野は視座を高める礎となり、視座を高めることは、意思決定の力を鍛えることに結びつきます。

「実践」のフェーズでは、志を同じくする仲間とチームを組み、「学び」を通して考えた社会変革プランを実行してもらいます。どんなプロジェクトも、PDCAを回しながら継続することが重要で、そのためにはともに学び、支えあうコミュニティが必要だからです。

 若手管理職に意思決定力が身につけば、組織は大きく変わります。大企業が次々と変わりはじめれば、いずれはそれが社会を変えるムーブメントとなるはずです

視点、視野、視座をアップデートし、
より大きな「山」を目指す

「ミドル変革塾」のプログラムの核は、視点、視野、視座をアップデートさせるところにありますが、中でも私たちが特に大切だと考えているのが、視座です。視点と視野も意思決定には必要ですが、視座が低ければ小さな意思決定しか行えず、結果的に小さな変化しか起こせないからです。

 たとえるなら、高尾山しか登ったことのない人が富士山やエベレストにいきなり登れないのと同じこと。目指すものが大きければ大きいほど、必要となる心技体は異なります。

 事業部同士の背比べに終始している管理職は少なくありませんが、経営者が「社会の利益」という大きな山を見ていても、本来組織の推進力となるべき管理職が近所のジャングルジムに夢中になっていたら、その会社が大きな変化を起こすことは難しいでしょう。

 あなたが登っているのは、どんな山でしょうか。頂上にあるのは、自分の昇進でしょうか、事業部の利益でしょうか、それとも会社の業績アップでしょうか?

 管理職として会社に貢献し、社会変革を起こすためには、自分が立つ足元の山の大きさをまず見極めることが必要です。そして、経営者と足並みを揃えるため、より高い視座に立つことを目指すべきです。

 では、個人の力でどう視座を高めればいいのか。それは、学びつづけることと、事業部や会社、業種、イデオロギーの異なる人と交流すること、それから、恐れずに志を「言語化」することです。大企業に務めている人は守られた環境にいるため、意識をしないと志を見失いがちです。だからこそ時間を作って大義を考え、口に出すことで責任を持つ必要があります。

 中には「お前が言うな」と言ってくる人もいるでしょう。でも、勇気を持って言葉にする人を揶揄するような人は、小さな山に登って満足している人です。すでに大きな山に登っている人は志の大切さを知っているので、頼もしい味方となってくれると思います。

 何事も、心が定まっていないとうまくいかないものです。剣道の教えに「心・技・体」という言葉があります。まず心、それから技、体の順で強くなるという考え方です。技を知り、技に溺れないことが、社会を変革するリーダーに求められる条件ではないでしょうか。技を紹介する書籍ですが、もう一歩先へ進みたい人は、この本質をぜひ忘れずにいてほしいと思います。

凸版印刷 | 坂田卓也
1982年生まれ。青山学院大学卒。ユニファ社外取締役。コンボ社外取締役。グロービス講師。凸版印刷入社後、事業部門にて、マーケティング支援に従事。2014年に経営企画部門に異動し、新事業開発を目的としたスタートアップ投資部門を設立。現在は、事業開発を加速させるために事業開発本部に異動し、20社を超えるスタートアップとの協業責任者に従事。
 
三越伊勢丹ホールディングス | 額田純嗣
1979年大阪府生まれ。早稲田大学卒業。2002年伊勢丹(現三越伊勢丹)に入社し、仕入れ・陳列・販売・CRM・人的管理・企画・店作り等百貨店のマーチャンダイジング業務全般を経験。2019年より2年間三越伊勢丹グループのマーチャンダイジング企画部長。現職は既存事業の構造改革、及び新規事業創出を担当する事業企画推進部長。
 
NHK | 神原一光
1980年東京都生まれ。早稲田大学卒業後、2002年NHK入局。ディレクターとして「NHKスペシャル」など制作。2018年6月より2020東京オリンピック・パラリンピック実施本部副部長。チーフ・プロデューサーとして番組・イベント開発も手がける。2012年、局内で「ジセダイ勉強会」を立ち上げ。ONE JAPANでは現在、副代表を務める。著書に『会社にいやがれ!』など多数。