2020年、新型コロナウィルスの感染拡大によって、世界中の経済が打撃を受けた。
特に、飲食、宿泊、旅行、運輸、興行、レジャーなどの分野はその影響をもろに受けた。
スキューバダイビングやラフティングなどのアウトドアレジャーや、遊園地や動物園、水族館などのレジャー施設への予約をネット上で取り扱う会社・アソビューもその一つである。
アソビューは当時創業9年目、社員130名のベンチャー企業。日の出の勢いで成長している会社でもあった。37歳だったCEO山野智久氏は、未曾有の危機に追い込まれ、悩み、苦しんだ。
「会社をなくしたくはない、しかし、社員をクビにするのはいやだ」
売上は日に日に激減し、ついにはほとんどゼロになった。
さて、どうする? 山野氏が繰り出した「秘策」を、『弱者の戦術 会社存亡の危機を乗り越えるために組織のリーダーは何をしたか』(ダイヤモンド社)から引用し、紹介する。

手っ取り早く売上を確保する方法とは何か?

「野武士コンサル」に光を見出す

会社存続のためには新しい売上の確保、すなわち「入る金を増やす施策」を講じる必要がありました。

当時の気持ちを正直に申し上げるなら、「お金さえ手に入るなら、寄付でもお布施でも貸付でもありがたい」「同情を誘うお涙ちょうだいでもいいから、とにかくお金が欲しい」です。有事においてはなりふりなど構ってはいられません。手段を選んでいる余裕などないのです。

公的補助金の類いは漏れなく申請しましたが、当社規模の会社を継続させる資金としては足りません。かといって、自分たちと同じような憂き目にあっている取引先やレジャー施設から新たに何かをいただく(取引提案をする)というのは、現実的には考えづらい。彼らも余裕がないのですから。加えて、レジャー消費そのものが滞っているため、消費者のお財布の紐をゆるめることは当分の間は難しそう。

では、どうするか?

正解は「他業界BtoB」。すなわち他業界の企業間取引に目を向けました。

そもそも論としてBtoCの商売というのは、消費者のニーズの移り変わりが早く、スピード感を持ってヒットを生み出すという難易度が高いものです。ITに限らずどんなサービスであれ、普段の生活シーンで相当なベネフィットが確信できなければ、消費者はお財布からお金を出してはくれません。

ところが企業間取引の場合は、商慣習があり、ニーズがある程度明確で、ビジネスの現場で直接交渉が可能かつ、決済者の承諾さえ得られれば良いので、スピードが速い。

そこで思いついたのがコンサルティング事業でした。「コンサル」というとかっこよく聞こえますが、要は何でも屋です。

業務改善やデジタルマーケティング支援、ウェブ制作。アソビューの従業員のスキルをもってすれば、事業会社の多くのお困りごとを解決できるという自信が、僕にはありました。しかも僕自身、リクルートでの経験や、起業間もない頃の人材コンサルティング業務で人材領域にはノウハウがありましたし、百数十人の組織を一から構築し回してきた(かつ失敗も含めた)経験も、事業を成長させてきた経験もあります。

なによりコンサル業務は経験と知見が売り物ですから、元手をかけずにすぐに始められたのです。

平時の備えが有事を左右する

僕は雇用シェアを提言したnoteのエントリーの最後に、「仕事をください」という小見出しをつけてこんな文章を書きました。

この一ヵ月で社会情勢は一変しました。私たちが今まで提供してきたサービスもその渦中で大きな打撃を受けています。しかし、私たちが培ってきた経験と実績が色褪せることはありません。それらをクライアントワークを通じて惜しみなく提供させていただくことで、社会に対して価値貢献し続けたいと考えています。
コンサルティングファームやシステム開発・WEB制作会社などでクライアントワークの経験を持ちながら、当社で自社の事業・サービスを成長させてきた経験豊富なメンバーが多数います。ぜひご相談ください

切実、です。ここから会社サイトにリンクを張り、正式なコンサル業務開始のプレスリリースも出しました。そこに掲載する写真も撮り下ろしたのですが、いつものラフでポップな会社イメージとは一線を画し、あえて全員スーツ。いかにも背水の陣といった感じの厳しい表情です。背水の陣、悲壮感。それをあえて前面に出しました。同情でもなんでも、とにかく問い合わせ数を増やすためにはなんだってやる覚悟でした。

コンサルティング事業の社内コードネームは「野武士コンサル」。手段を選ばず、生き残りをかけてがむしゃらにやろうという意志の表れです。今だけは、「遊びじゃない、本気のアソビュー」。そんな気合いがみなぎっていました。

その気合いの甲斐もあってか、noteの記事はバズりました。結果、二十数件もの案件を獲得。しかも、その顧客の多くは僕がSNSでつながっていた友達でした。感謝です。

近場のコネクションに頼るのは、経営者として安直でしょうか? いえ、そうは思いません。平時の時に培ったアセット(資産)を有効活用する以外、有事にできることなんてほとんどないからです。友達、同級生、先輩という僕の大切な財産。普段から大切にしている関係性だからこそ、いざ困った時に手を差し伸べてくれる。立場が逆なら僕も必ず差し伸べます。

別の言い方をするなら、「平時の準備が有事を左右する」。有事の際にいきなり新しいことはできません。窮地に陥って初めて周りを見回し、面識もない人に「助けてください、これから仲良くしましょう」と言ったところで、助けてはくれないのです。

手っ取り早く売上を確保する方法とは何か?
山野智久(やまの・ともひさ)
1983年、千葉県生まれ。明治大学法学部在学中にフリーペーパーを創刊。卒業後、株式会社リクルート入社。2011年アソビュー株式会社創業。レジャー×DXをテーマに、遊びの予約サイト「アソビュー!」、アウトドア予約サイト「そとあそび」、体験をプレゼントする「アソビュー! ギフト」などWEBサービスを運営。観光庁アドバイザリーボードなど中央省庁・自治体の各種委員を歴任。アソビューは期待のベンチャー企業として順調に成長していたが、2020年にコロナ禍で一時売上がほぼゼロに。しかしその窮地から「一人も社員をクビにしない」で見事にV字回復を果たしたことが話題になり、NHK「逆転人生」に出演。著書に『弱者の戦術 会社存亡の危機を乗り越えるために組織のリーダーは何をしたか』(ダイヤモンド社)がある。