リモートワーク、残業規制、パワハラ、多様性…リーダーの悩みは尽きない。多くのマネジャーが「従来のリーダーシップでは、もうやっていけない…」と実感しているのではないだろうか。
そんな新時代のリーダーたちに向けて、認知科学の知見をベースに「“無理なく”人を動かす方法」を語ったのが、最注目のリーダー本『チームが自然に生まれ変わる』だ。
部下を厳しく「管理」することなく、それでも「圧倒的な成果」を上げ続けるには、どんな「発想転換」がリーダーに求められているのだろうか? 同書の内容を一部再構成してお届けする。

9割のリーダーが気づかない、「やる気が出ない部下」の脳内で起きていることPhoto: Adobe Stock

「内部モデル」を変えないと、
人の行動は変わらない

 人を動かし、一定の成果をあげ続けなければならないリーダーにとって、最も役に立つ学問の一つが「認知科学」です。

 これがどんな学問であり、どんな考え方を基礎にしているかについては、『チームが自然に生まれ変わる』に書いておきましたが、そのエッセンスをひと言で表すなら、「入力」としての外的刺激と「出力」としての反応とのあいだに、「情報処理システム」としての心を考え、そのメカニズムに迫っていく学問だということになるでしょう。

 外部刺激と行動とをつなぐ情報処理のモデルは、「内部モデル」「メンタルモデル」「内部表現」などと呼ばれます(ここでは「内部モデル」という言葉を採用することにしましょう)。

9割のリーダーが気づかない、「やる気が出ない部下」の脳内で起きていること

 ごく簡単に言うなら、内部モデルとは「ものの見方」のことです。

 認知科学がリーダーシップに与える最大の示唆は、「内部モデルが変わると行動が変わる」ということなのです。

まず世界観を変えよう
──認知科学がリーダー論に与える最大の示唆

「世界をどんなものとして見ているか」が人によって違うからこそ、同じリーダーの下で同じ仕事をしているメンバー間でも、その行動は千差万別となります。

 たとえば、同じ上司から「今月中にあと10件の見込み客(リード)を獲得しましょう」と言われたときに、すぐにアクションを起こせる人とそうでない人がいます。これも内部モデルの違いで説明できます。

「リード獲得なんて楽勝だ。その気になればあと30件はいける」という内部モデルを持っているAさんは、この刺激が与えられたときに、当然のように行動を開始します。

 他方、「リード獲得はしんどい。あと3件とれればいいほうだな……」という内部モデルを持つBさんは、どうしても動く気になれなません。

 サボっていると叱られるので、一応やっているようなフリをするものの、どうしてもその姿勢には熱量が感じられないのです。

 ここで重要なのは、Bさんのパフォーマンスが低くなるのは、彼に「やる気がない」からではないということです。

 彼の行動は、その内部モデルから必然的に出力されているにすぎないのです。

 こんなとき、リーダーとしてやるべきことは何でしょうか?

 そう、Bさんの内部モデルを書き換えればいいのです。

 彼がAさんと同じように「見込み客の獲得なんて楽勝」という認知を持つようになれば、Bさんの行動は自然に変わります。

 さらに、メンバー全員の内部モデルが「リード獲得=楽勝」に書き換われば、リーダーが何もしなくても自然と動き続けるチームに生まれ変わることができます。

「やる気が出ない部下」の脳内で起きていること

 ここで、従来まで支配的だった「外因的な働きかけ」に頼るリーダーシップを、認知科学の枠組みに落とし込んでみましょう。

「行動=外部刺激に対する内部モデルの処理結果」である以上、刺激を変えることで人の行動が変わる可能性は十分にあります。

 たとえばBさんに「ここで目標を達成すれば、来期は君を課長に推薦するつもりだよ」と伝えてみましょう。

 もしBさんが「役職が上がることは望ましい」という内部モデルを持っていれば、彼はリード獲得に向けて猛然とがんばりはじめるはずです。

 あるいは、「日報の提出をルール化する」という外部刺激を与えるのはどうでしょうか。

 日報を出さなければ上司に叱られるかもしれません。

 もしBさんが怒られることを極度に避けたがるような内部モデルを持っていれば、やはり行動変容は起きるはずです。

 これこそが従来、「モチベーション」と呼ばれてきたものの正体です。

 彼が行動するのは「やる気が高まったから」ではありません。

 あくまでも一定の外部刺激を与えられた結果、彼の内部モデルから強制的にその行動が出力されているにすぎないのです。

 しかし、VUCAの時代に入ってからは、個人ごとの内面的な価値へのシフトが進んでいます。

 これは言ってみれば、かつてはメンバー間でも似通っていた内部モデルが、バラバラに多様化したということです。

 以前であれば、「昇進」「報酬」「叱責」「激励」という外部刺激に対して、ほとんどの人が「がんばり」をアウトプットしたかもしれません。

 それはみんなの内部モデルが同質的だったからです。

 しかし、現代ではそういうわけにいきません。

 Bさんの内部モデルが「役職なんていらない」「怒られても平気」「こんな会社、いつでも辞めてやる!」というものであれば、いくら昇進とか叱責といった刺激を与えても、行動は変わらないでしょう。

 また、そもそもVUCA環境においては、部下それぞれの内部モデルに合わせて、いちいち外部刺激を与え続けるようなやり方をしていては、もはやマネジャーの身体がもちません。

 このように、認知科学的な観点から見ても、外因的な働きかけに頼るリーダーシップには無理があるのです。

 やはり人やチームを「自然に生まれ変わらせる」には、内部モデルの変容を迫るのがいちばんなのです。