リモートワーク、残業規制、パワハラ、多様性…リーダーの悩みは尽きない。多くのマネジャーが「従来のリーダーシップでは、もうやっていけない…」と実感しているのではないだろうか。
そんな新時代のリーダーたちに向けて、認知科学の知見をベースに「“無理なく”人を動かす方法」を語ったのが、最注目のリーダー本『チームが自然に生まれ変わる』だ。
部下を厳しく「管理」することなく、それでも「圧倒的な成果」を上げ続けるには、どんな「発想転換」がリーダーに求められているのだろうか? 同書の内容を一部再構成してお届けする。

優秀なリーダーは「メンバーの貢献意欲」をあてにしないPhoto: Adobe Stock

「憧れ」や「貢献欲」の内側にも
Have toは入り込む

 メンバーを外的刺激によってではなく、内因的な原理によって(内側から)動かすためには、個々人のWant to(やりたいこと)の解像度を高めていく必要がある。

 しかし、いきなり「自分は/あなたは何をやりたいのか?」と問いかけても、なかなかそれは見えてこない。

 むしろ、その人を縛り付けているHave to(やらねばならないこと、やらねばならないと思いこんでいること)を一つひとつ明らかにしていき、それを捨てていくことこそが、個人の真のWant toへの近道になる。

 とはいえ、Have toというのもなかなか簡単には見つけづらいものだ。

 それは往々にしてWant toであるかのような見かけをとっているからだ。

「この人の役に立ちたい」という貢献欲や、「この人のようになりたい」という憧れも、じつはHave toと結びつきやすい。

 これらは向上心や利他性といったポジティブな感情を伴うという点がかなり厄介だ。

 たとえば、会社の上司に尊敬できる人がいて、その人をサポートしたいという気持ちを糧に仕事に取り組んでいる人がいたとする。

 たいていの場合、そういう人の根っこには「その上司から認められたい」という承認欲求が潜んでいる。

 だから、その上司が他社に転職してしまったり、まったく別の部署に異動になってしまったりした瞬間、「自分のやりたいこと」がわからなくなってしまう。

 こうなると、目の前に残されているのは、「本当はやりたくないけれど、元上司に認められるためにやるべき(だと思い込んでいた)仕事」だけだったりする。

 また、一般的にポジティブな印象の強い「憧れ」も、現実の外側にあるゴールを設定する際の邪魔になる。

 たとえば、目標を見失って意気消沈していたときに、メンタリングのセッションを受けて、その効果に衝撃を受けた人のケースを考えてみよう。

 彼女は自分を立ち直らせてくれたカウンセラーに感謝するとともに憧れを抱き、「すごい! 私もこの人のように誰かのカウンセラーになりたい」という願望を持つことになる。

 著者らも個人向けのセッションを行うことがあるが、こういう反応は一定数見られる。

 もちろん、自分を立ち直らせてくれた人を前にして、「自分もこうやって誰かを助けられる人になりたい!」という想いを抱くのは、きわめて自然なことだ。

 だが、メンターの腕前に感動したからといって、「メンターという役割」が当人の真のWant toだと勘違いしてはいけない。

 実際、自分の立ち直り経験だけをきっかけにしてメンタリングの世界に入っても、うまくいくケースはあまりない。

 そもそも、カウンセリングやメンタリングは、人間の心の機微に関心がないと難しいからだ。

「あのメンターのようになりたい」という強い憧れは、いつしか「あの人のようにならなければ!」という強烈なHave toに変わる。

 クライアントとの関係に疲弊して、不幸な結果に終わる新人メンターが多いのには、こうした背景もあるのだ。

【やってみよう】
□ 1日の流れを振り返り、やっていることを細かくリストアップしてみよう。
□ そのリストのうち、「仕方なくやっていること」を横線で消してみよう。
□ 「Want toの仮面」をつけている隠れHave toはないだろうか? 3つ探してみよう。