2020年、新型コロナウィルスの感染拡大によって、世界中の経済が打撃を受けた。
特に、飲食、宿泊、旅行、運輸、興行、レジャーなどの分野はその影響をもろに受けた。
スキューバダイビングやラフティングなどのアウトドアレジャーや、遊園地や動物園、水族館などのレジャー施設への予約をネット上で取り扱う会社・アソビューもその一つである。
アソビューは当時創業9年目、社員130名のベンチャー企業。日の出の勢いで成長している会社でもあった。37歳だったCEO山野智久氏は、未曾有の危機に追い込まれ、悩み、苦しんだ。
「会社をなくしたくはない、しかし、社員をクビにするのはいやだ」
売上は日に日に激減し、ついにはほとんどゼロになった。
さて、どうする? 山野氏が繰り出した「秘策」を、『弱者の戦術 会社存亡の危機を乗り越えるために組織のリーダーは何をしたか』(ダイヤモンド社)から引用し、紹介する。

飼育員 餌やりPhoto: Adobe Stock

動物園や水族館は、休業しても飼育費がかかる

レジャー施設と日常的に連絡をとっているセールスの社員が、ある時ふと気づきました。「休園中で多くの施設に連絡がつかない中、動物園と水族館だけは連絡がつくんですよね」休園だろうと動物や魚たちの世話をする必要がある施設では、飼育員を休ませるわけにはいきません。だから施設には常に人がいる、連絡がつくということでした。

遊園地などのレジャー施設は政府からの休業要請を受けて休業し、その間の人件費を抑えつつ雇用調整助成金を活用することで、一時的に運営を賄うことができます。しかし動物園や水族館は人件費はもちろん、エサ代をはじめとした飼育費も営業中と同じようにかかります。

つまり動物園や水族館は、他のレジャー施設に輪をかけて苦しい状況にありました。彼らをパートナーとするアソビューとしては、なんとかして応援したい。

でも、待てよ。

我々が応援したいと思うということは、その施設を愛してやまないゲストだって同じように応援したいんじゃないだろうか?

世間では「休業せざるをえない行きつけの飲食店を応援しよう」というトレンドが生まれつつあり、さまざまなクラウドファンディングが立ち上がっていました。お店や施設を愛するお客様の中に「金銭的に支えたい」という気持ちが確かにあったのです。

そこでスタートさせたのが「応援早割チケット」です。これは、営業が再開した時に使える入場チケットを、アソビューで前払いで購入してもらうもの。施設としては休業中でもキャッシュが先に手に入るので、設備の維持・管理の足しになります。

この企画は四国水族館や神戸どうぶつ王国をはじめとした複数の施設とスタートし、かなりの好評をいただきました。

四国水族館の場合、税込み2万2000円のサポーターズパスポート(初回来館日より1年間有効、同伴者無料)2000枚が即完売。感謝を込めて、購入者の名前を館内サイネージで1年間掲出するという特典付きでした。

結局、応援早割チケットは流通額ベースで1億円近くの成果を上げました。

お客様の愛で施設を守る方法
山野智久(やまの・ともひさ)
1983年、千葉県生まれ。明治大学法学部在学中にフリーペーパーを創刊。卒業後、株式会社リクルート入社。2011年アソビュー株式会社創業。レジャー×DXをテーマに、遊びの予約サイト「アソビュー!」、アウトドア予約サイト「そとあそび」、体験をプレゼントする「アソビュー! ギフト」などWEBサービスを運営。観光庁アドバイザリーボードなど中央省庁・自治体の各種委員を歴任。アソビューは期待のベンチャー企業として順調に成長していたが、2020年にコロナ禍で一時売上がほぼゼロに。しかしその窮地から「一人も社員をクビにしない」で見事にV字回復を果たしたことが話題になり、NHK「逆転人生」に出演。著書に『弱者の戦術 会社存亡の危機を乗り越えるために組織のリーダーは何をしたか』(ダイヤモンド社)がある。