11月16日、米中首脳会談がオンラインで行われたが、アメリカと中国との対立が緩和へと向かう気配は未だない。むしろ、「対立が顕在化」したと見る向きが多い。戦後70年以上にわたって、我々日本人の多くは「戦争の可能性」を真剣に考えてこなかったが、いよいよそれでは済まされなくなっている。ただし、その大前提として、絶対に押さえておくべきポイントがある。それは「現代の戦争」は「20世紀型の戦争」とは根本的に異なるということだ。どういうことか? 最新刊『変異する資本主義』(ダイヤモンド社)で「現代の戦争」を深く検証した中野剛志氏が解説する。

中国が仕掛ける「ハイブリッド戦争」に、日本が抵抗できない理由写真はイメージです Photo: Adobe Stock

「平和」と「戦争」の境界をなくす“恐るべき戦略”

 11月16日、米中首脳会談がオンラインで行われたが、アメリカと中国との対立が緩和へと向かう気配は未だない。アメリカ及びその同盟諸国と中国との間で、戦争が起きるのではないかという懸念もある

 我が国は、「平和惚け」と揶揄されるように、戦後、70年以上にわたって、戦争の可能性について真剣に考えてはこなかった。しかし、いよいよ、それでは済まされなくなってきたのだ。

 ところで、21世紀の戦争の形態は「ハイブリッド戦」であると言われている。

「ハイブリッド戦」とは、誰が戦うかや、どんな技術を用いるかといった形態の境界をなくし、正規軍のみならず、非正規軍、無差別テロ、犯罪など、多様な手法を複合的に用いるような、多面的な姿をした戦争のことを指す

 要するに、今日の戦争は、もはや正規軍同士の武力行使には限られなくなったということである。20世紀における戦争のイメージとは違うのである。

 実は、この「ハイブリッド戦」を最も得意とするのが、中国なのだ。

 そもそも、中国のハイブリッド戦は、古くは孫子に起源をもつ中国固有の伝統であり、特に毛沢東の戦略思想に基づくものであった。

 毛沢東とその同志たちは、1920年代から40年代にかけて、列強との全面戦争を引き起こすことなく勝利するための戦略を研究した。その結果、西洋において「平和」とされる状態と「戦争」とされる状態の間を利用するという戦略が有効であるという結論に至ったのである。

 それは、「平和」と「戦争」の境界を無くすという、まさにハイブリッド戦であった。

 中国は、この毛沢東のハイブリッド戦の戦略思想を受け継いでいる。そのように見ると、中国の特異な行動の意味が、よく理解できるであろう。

 例えば、中国は、アメリカとその同盟国との戦いにおいて、平時と戦時の区別をしない。だから、平時において、情報戦、サイバー攻撃、知的財産権の窃取など、様々な手段による圧力や制裁、法的・準法的措置などを継続的に実施しているのだ。

 また、中国のハイブリッド戦は、間接的であり、じわじわと漸進的に遂行され、準軍事組織や民間組織を広範に活用する傾向にある。さらに、敵にとっては必ずしも重要ではない地点や辺境地帯から始まるという特徴もある。今日、その典型が、尖閣諸島や南沙諸島に対する中国の執拗な行動にみられる。

 これらの特徴は、明らかに、毛沢東の戦略思想を反映している。

 毛沢東のゲリラ戦は、地方の占拠から始まり、次第に町そして都市へと漸進的に拡大するものだった。これは、都市部など戦略的に重要な拠点から占拠するという西洋の戦略思想とは正反対の発想である。

 さらに、中国のハイブリッド戦は、長期間にわたって忍耐強く遂行され、決定的な敗北を避けつつ慎重に進められる。これもまた、短期決戦によって、決定的な勝利を得ようとする西洋の戦略思想とは対照的である。