去る5月29日、『日曜日の初耳学』(TBS系)に出演し、「熱血授業」が話題となった森岡毅氏(株式会社刀代表取締役CEO)。6月12日にも第2回が放送された。
番組では「自分の強みを見つけて磨くこと」の重要性を熱く語り、大きな反響を呼んだ。
自分の強みを見つけてキャリアを切り開くメソッドについては、森岡氏の著書『苦しかったときの話をしようか』に詳しく書かれている。
多くの人は、自分自身を知らない、と森岡氏は指摘する。どうすれば自分の強みを発見できるのか、どうやったら自分の強みをキャリアに活かせるのか。
筆者は長年にわたり編集者として森岡氏と仕事をしてきた。森岡氏の哲学や考え方は、ネスタリゾート神戸や西武園ゆうえんちなど支援先のビジネスを成功に導くだけではなく、個人がキャリアを考えるうえでも大きな指針となっている。今回は、その秘密を公開しようと思う。(構成/ダイヤモンド社・亀井史夫)(初出:2021年12月3日)

森岡毅流「自分の強みを見つける」方法とは?【書籍オンライン編集部セレクション】

あなたの“強み”は、好きな「動詞」の中にある

あなたの強みは必ず好きなことの中にある。自分にとって好きな「~すること」こそが、これまで良い結果をもたらしてきたに違いない。「名詞」ではない。「動詞」こそが、これまでもこれからもあなたにポジティブな結果をもたらす。つまりそれがあなたの“強み”だ。

人に話しかけて良い反応があったのなら、「話しかけること」が好きになるだろう。何かをよく考えることで誰かの役に立ったのなら、「考えること」が好きになっているだろう。幼少期から現在に至る経験の蓄積と記憶が、「好きなこと」と「嫌いなこと」を決めてきたはずなのだ。

今まで自分が好きだった「~すること」を実際に書き出してみよう。用意するものは簡単だ。大量のポストイットと、A4程度の紙4枚と、ペンがあれば良い。

サッカーが好きとか、スニーカーが好きとか、そういう「名詞」は要らない。必要なのは「動詞」だ。最低50個、できれば100個くらいの好きな行動を動詞で書き出してみる。

集まるものは、だんだん似通ってくるし、重複することがどんどん増えてくる。たとえば、「運動会の騎馬戦で勝つ作戦を考えることが好きだった」と、「部活のバスケで地区大会を勝ち抜く作戦を考えることが好きだった」は両方とも「作戦を考えることが好き」で同じだ。それで良い。同じ動詞が別の場面であなたをハッピーにした事実を自覚することが大事だと森岡氏は指摘する。

「あなたの強みは必ず好きなことの中にあります。ここまでの成功は、あなたの強みによってもたらされてきたのです。さらにそれはこれからの人生でも続く。会社が給料を払っているのは、あなたが人知れず弱点克服のために費やしている努力ではありません。会社がお金を払っているのは、あなたの生み出す業績であり、その業績はあなたの強みから生まれるのです。キャリアで成功したいなら“強み”をもっと磨け! すべては強みを認識することから始まるのです」(森岡氏)。

書き出した動詞を、T(Thinking/思考)、C(Communication/コミュニケーション)、L(Leadership/リーダーシップ)に分類して、紙の左上にそれぞれ「T」、「C」、「L」、「それ以外」と明記してみよう。T、C、L、それぞれに、得意な行動があり、向いている職能がある。詳しくは『苦しかったときの話をしようか』に書かれているので、興味のある人は参照してほしい。

50~100枚を仕分け終わった後に、ポストイットが最も集中している系統こそがあなたの属性を表している可能性が高い。その能力を活かせる職能を選ぶべきなのだ。

どれかが決定的に弱い場合は、その弱さが致命的にならない職能を選ぶようにすれば良いのです。コミュニケーションが何よりも苦手な対人恐怖症の人は、営業スキルを生涯の武器に選ぶのはやめた方が良いということです。数字を見るとじんましんが出る人は、決してファイナンシャルアナリストを目指してはいけません」(森岡氏)。

3系統に分散する人は特徴がないように思えて、実はそうではない。何でもそこそこ好きだし、何でもできる器用さも持っており、それは極めてレアな特徴だ。ただし、何でもできるので消去法がなかなか使えない。このタイプの人は職能の選択に人一倍悩んでしまうだろう。しかし、せっかく珍しいのだから、その器用なところを活かす。何でもまんべんなくできないと務まらないような職能を選べば己の特徴を武器にできる。

ナスビは立派なナスビになることを目指せ

森岡氏の考えはこうだ。まずは己を知り、自分の特徴を活かせるたくさんの正解から1つの職能を選び、その職能を積める戦場へ進まなければならない。就職するなら身につけたい職能で配属してくれる会社をできるだけ選ぶべきだ。この人間をどこで使った方が会社のメリットは大きくなるか?会社はそれを考えている。最初は別の部署で始めて、ゆくゆくは希望の部署にも転属できるようになると言っている会社よりも、最初から希望の専門性を経験できる配属をしてくれる確率が高い会社の方が、職能の観点では魅力的な選択ということになる。

「欧米のような個人主義の文化では、たとえ嫌でも自分という“個”について幼少期から自覚を促される教育を、家庭でも学校でも受け続けます。しかしゼロから何かを生み出して全員で分ける農耕民族を長く続けてきた日本人はそうではない。全体として自分たちがどうあるべきか、集団の中で自分はどんな善良な構成員であるべきかという道徳律は良く教えるが、個の自覚を促す教育は伝統的に貧弱です。昭和の時代ならば、レールが“はっきり”そして“しっかり”していたからそれで良かった。皆で勉強して、皆で偏差値の高い大学を目指して競争して、皆で一流の大きな会社に入って、皆で一生懸命働いて、そうすれば皆を会社が一生面倒見てくれる。ややこしいことを言う個性の強い人間よりも、事務処理能力だけは高くてできるだけ従順な大量の“歯車”が必要な時代だった。かつての日本では“個”の覚醒など要らなかったのです」(森岡氏)。

しかし今の時代は、企業同士が小さくなっていくパイの中でシェアを激しく削り合う、質的な戦いの中で生き残っていかねばならない。中途半端な人材を多く抱え続けられる企業は少ないのだ。避けた方が良いのは自分にどんな職能が身につくのか想像がつかない会社だ。会社から割り振られた仕事を黙々とやり、適当にローテーションされながら、広範囲を知るゼネラリストをつくると言われても、真実はどの領域においてもプロではない中途半端な人材を大量生産させてしまっている。中途半端な人ほど途中で放り出されるリスクは日に日に増している。

「ナスビには、ナスビに適した土壌があるということです。ナスビを合っていない土壌の事情に無理矢理合わせたり、ましてキュウリにしようとしてもダメ。それをやってしまうと、ナスビはただ残念なナスビになってしまう。自分がナスビなら立派なナスビへ、キュウリなら立派なキュウリになるように、ひたすら努力を積み重ねれば良いのです」(森岡氏)。

サッカーが下手でも、サッカーの戦術分析官にはなれる

日本の学校教育では、努力して「弱点を克服する」ことが美徳とされてきた。欠点のないオールラウンドな生徒が理想で、凸凹のある生徒は劣等生のように扱われてきた。しかし今はそんな時代ではない。欠点があったとしも、それを上回る長所があるならば、そこを努力して伸ばすべきなのだ。

森岡氏の理論を聞いて、思い当たった最近のニュースがあった。関西サッカーリーグ1部の「おいでやす京都」に、龍岡歩という戦術分析官がいるのをご存じだろうか。実は彼は、もともと運動神経が悪く、サッカーも苦手だったという。しかし、サッカーの試合を見たり、サッカーのゲームをやったりして戦術分析をするのが何よりも好きだった。国内外を問わず年間1000試合を観戦し、戦術を分析したレポートをブログに書きまくった。やがてそのブログは話題になり、クラブチームから戦術分析官として招かれるまでになった。そしてチームは見事に成績を上げているという。彼が好きだったのは、「サッカー」そのものではなく「サッカーの戦術を分析すること」だったのだ。それが見事に仕事につながった好例だろう。

考えてみれば「自分の強みを見つけて磨け」という森岡氏の思想は、個人のキャリアの話だけではなく、ビジネスにも生かされている。刀は実際に、支援先企業のビジネスで実績を上げているのだ。

西武園ゆうえんちは、「古さ」という武器を発見して、「昭和の商店街」をつくり、再興した。

ネスタリゾート神戸は、「自然しかない」という特徴を逆手にとって、「大自然の中のテーマパーク」に生まれ変わった。

あなたがコンプレックスに思っていることは、もしかしたら際立った個性かもしれない。

「己を知る」ことから全ては始まるのだ。

森岡 毅(もりおか・つよし)
森岡毅流「自分の強みを見つける」方法とは?【書籍オンライン編集部セレクション】

戦略家・マーケター
高等数学を用いた独自の戦略理論、革新的なアイデアを生み出すノウハウ、マーケティング理論等、一連の暗黙知であったマーケティングノウハウを形式知化し「森岡メソッド」を開発。経営危機にあったUSJに導入し、わずか数年で劇的に経営再建した。
1972年生まれ。神戸大学経営学部卒。1996年、P&G入社。日本ヴィダルサスーン、北米パンテーンのブランドマネージャー、ウエラジャパン副代表等を経て2010年にユー・エス・ジェイ入社。革新的なアイデアを次々投入し、窮地にあったUSJをV字回復させる。2012年より同社チーフ・マーケティング・オフィサー、執行役員、マーケティング本部長。2017年にUSJを退社し、マーケティング精鋭集団「刀」を設立。
「マーケティングで日本を元気に」という大義の下、丸亀製麺を僅か半年でV字回復に導き、旧グリーンピア三木(現ネスタリゾート神戸)を経営再建させたほか、西武園ゆうえんちのリニューアルなどいくつものプロジェクトを推進。USJ時代に断念した沖縄テーマパーク構想に再び着手し注目を集めている。
著書に、『USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?』(KADOKAWA)、『確率思考の戦略論 USJでも実証された数学マーケティングの力』(共著、KADOKAWA)、『誰もが人を動かせる! あなたの人生を変えるリーダーシップ革命』(日経BP社)、『苦しかったときの話をしようか ビジネスマンの父が我が子のために書きためた「働くことの本質」』(ダイヤモンド社)などがある。『カンブリア宮殿』(テレビ東京系)、『日曜日の初耳学』(TBS系)にも出演。