警視庁のノンキャリで採用され、2018年に同庁組織犯罪対策部の管理官(警視)を退官した櫻井裕一氏が、刑事人生を振り返る『マル暴 警視庁暴力団担当刑事』(小学館新書)を上梓した。櫻井氏は在職中のほぼ全てを暴力団担当、いわゆる『マル暴』一筋で歩み、稲川会と住吉会の抗争事件や、暴力団への不正融資事件、暴力団が仕切る談合事件などの数々の経済事件の捜査を経験した。その櫻井氏に、反社会的勢力による企業恐喝など、企業対象暴力の現状を聞いた。(聞き手・構成/フリーライター 村上 力)

記事のもみ消し依頼をきっかけに
銀行が暴力団関連企業に不正融資

元警視庁警視の櫻井裕一氏さくらい・ゆういち/元警視庁警視。東京都出身。警視庁入庁後、各階級において一貫して組織犯罪対策に従事。反社会的勢力集団、外国人犯罪集団、違法薬物犯罪集団等、組織的に行われる数々の凶悪事件、詐欺事件、薬物事件、企業恐喝事件等の現場に対峙し、解決への対応指揮を行う。日本屈指の繁華街を管轄する新宿署、渋谷署で組織犯罪対策課の課長も経験。2018年、警視庁警視にして組織犯罪対策部組織犯罪対策第四課で退官。2020年に同じ志を持つ仲間とSTeam Research & Consulting株式会社を設立、現職。

――櫻井さんの経歴を簡単にご紹介ください。

 高校を卒業して、1976年に警視庁に入り、最初は赤羽警察署に配置されました。83年に暴力団事件を担当する暴力犯係の刑事となってからは、ずっと捜査四課、組織犯罪対策部などで暴力団関連事件の捜査をしていました。渋谷署の組織犯罪対策課の課長代理、新宿署の組対課長を経て、警視庁本部の組対部第四課の管理官を務めました。

――『マル暴』では、関東の暴力団同士の抗争事件のお話のほかに、銀行の暴力団への不正融資や、談合、詐欺などの経済事件の捜査経験が書かれておりますが、最近の企業対象暴力の特徴をお聞かせください。

 今も昔も、暴力団が最初から企業とじかに接触することはありません。必ず、間にブローカーや、実業家、ブラックジャーナリストや事件屋を介在させます。企業経営者がそうしたグレーゾーンの人たちと人間関係を深め、後戻りできなくなったところで、暴力団が顔を出す、というパターンが実際によくあります。