「詳しい人しか飲んではいけない酒」日本酒が致命的欠陥を克服する方法Photo:KusayaDaisuki/PIXTA

Sake Experience Japanの井谷健代表は、日本酒が一定程度の知識を持った消費者でないと売り場で商品を選択できない状態になっていることを憂う。ワインのマーケティング関係者が長年取り組んできたように、ラベルや販促物を通じて、本当に消費者が求めている情報を適切に提供していかなければならない。(ダイヤモンド編集部 深澤 献、編集者 上沼祐樹、フリーライター 藤田佳奈美)

知識がないと選べない…
日本酒の致命的欠陥

 Sake Experience Japanの代表を務める井谷健氏は現在、輸入酒の日本向けのマーケティング活動支援や、国内の日本酒蔵元の海外戦略の支援などを行っている。前編では、同氏がこれまでに携わった事例などをもとに、輸入ワインが量販店で販路を確立していくために行ってきたマーケティングについて、話を聞いてきた。

「輸入ワインの業界では、消費者が自分の好きなものを売り場から選択でき、そして再び売り場を訪れた際に、再度、自分の好みのワインを選べる環境を、商品面でも売り場づくりからも行ってきました。その結果、ワインへの関与度がそれほど高くない人も引き込み、リピーターを獲得してきたわけです」(井谷氏、以下カッコ内は同)

 それに対し、日本酒はどのように消費者に向き合っているか――。井谷氏からすると、致命的な欠点が見えるという。

「それは、消費者が知識を持っていないと売り場で商品を選択できない状態になっていることです。よく『日本酒は詳しくなくて……』と言う人がいますが、一昔前のワインがそうだったように、詳しい人しか飲んではいけない酒になっている感があります」

 現在、「清酒の製法品質表示基準」を満たした日本酒は「特定名称酒」と呼ばれ、「吟醸酒」「純米酒」「本醸造酒」の3種類に分類されている。さらに、精米歩合や製造工程アルコールが添加されているか否かで、吟醸酒は「吟醸」「大吟醸」、純米酒は「純米」「純米大吟醸」「純米吟醸」「特別純米」、本醸造酒は「本醸造」「特別本醸造」の8種類に分かれている。加えて、「普通酒」と呼ばれるスーパーやコンビニに並ぶパック酒やカップ酒も広く親しまれている。「詳しくないから選べない」とされるのは、8カテゴリーの特定名称酒のほうだろう。

 かつて、1949年から1989年までは、日本酒は「特級」「一級」「二級」の3等級で分類されていた。級の認定は国税庁の酒類審議会が行う官能検査によって決まり、級によって酒税の税率が異なっていた。必ずしも級が高いほど味わいが良いわけではないが、多くの消費者は級を頼りに買い求めていたのは事実だ。

「現在の8カテゴリーは、精米歩合とアルコール添加の有無という “原価”で分かれているのであって、味わいという軸で分かれていない。ここに非常に大きな問題があります。日本酒の知識があり、自分の好みのブランドを知っている人でない限り、店頭の情報からだけでは選択できないという事態に陥っているんです」