みずほが、不祥事を何度繰り返しても生まれ変われず、金融庁に「言うべきことを言わない、言われたことだけしかしない」と企業文化を酷評されるに至ったのはなぜか。その真相をえぐる本特集『みずほ「言われたことしかしない銀行」の真相』(全41回)の#39では、みずほの暴力団融資問題が発覚した2013年に時計の針を戻す。問題融資の説明が二転三転したみずほ銀行。表面化しないよう、ひた隠しにしてきた銀行の底深い闇を探る。

「週刊ダイヤモンド」2013年11月2日号の緊急特集「みずほ なぜ過ちを繰り返すのか」を基に再編集。肩書や数値など情報は雑誌掲載時のもの。

暴力団融資の陰に潜む
みずほ銀行の底深い闇

「企画ラインはいったい何をしているんだ。全員クビだろ!」

 みずほ銀行で今、経営の中枢を担う企画部門の行員たちが、強烈な批判を浴びている。

 企画部門は、経営全体を見渡し戦略を練る役割に加え、霞が関の官僚や永田町の議員との対外的な交渉も担う、いわば銀行の「頭脳」であり「顔役」となる部署だ。

 不祥事のダメージコントロールも彼らの重要な役割だが、それが今回の暴力団融資をめぐる問題ではことごとく機能しなかった。

 2013年4月の人事で刷新された企画部門は、担当常務の腰が重く、金融庁とのコミュニケーション不足によって、行政処分前後の対応が後手に回ったにもかかわらず、つい最近まで国会議員との関係づくりすら、まともにしてこなかった。

 その結果、テレビ中継が入る国会の一大イベント、衆議院予算委員会で、野党議員から軽々しく佐藤康博頭取の参考人招致を求められるという、銀行としては最悪の事態を招いてしまった。

「おまえ、この先生にコネクションあるか」「いや、ないです……」

 鎮まるはずの火の手が広がる一方という状況に、企画部門の行員たちは声を潜めながらそう会話をし、青ざめた顔でロビー活動にあわてて動き始めたという。

 現場の行員たちもまた、融資問題の余波に苦しんでいる。

 金融庁の行政処分のせいで、本支店の営業部隊が、いっせいに取引先企業に「おわび行脚」していたときのことだ。

「とにかく、余計な仕事を増やさないでくださいよ」

 親密先の大手メーカーで、持参したペーパーを基に、問題となった「提携ローン」の仕組みや経緯などを説明している途中、話をさえぎるように、メーカーの役員がそう言葉を漏らした。

 このメーカーは9月、社債発行の手続きを、みずほグループに決めたばかり。その矢先の行政処分だったため、社内調整に追われる羽目になった。「たいした問題ではない」と言い訳がましい説明をする行員たちの姿を見て、怒りが込み上げてきたという。

 みずほ銀の取引先企業は、今回の問題を比較的冷静に見ているところも多いが、取引停止などで銀行に実害が出るリスクは、むしろこれから顕在化しそうだ。

 そのリスクが最も迫っているのが、国や自治体との取引だ。公共機関は、一般の企業より一段厳しい取引のためのコンプライアンス(法令順守)基準がある。

 もし基準に抵触し、国債や地方債の入札というみずほ銀が強みを持つ分野で、一時取引停止にでもなれば、影響は計り知れない。

 基準抵触の大きな要件の一つは、金融庁による「業務停止命令」だ。

 今回みずほ銀が受けた行政処分は「業務改善命令」のため、取引停止は回避できそうに思える。しかし、みずほ銀は当初、トップの関与はなかったと金融庁に虚偽の報告をしており、今後、追加処分が出される可能性が高い。

 そのため、自治体などは今後の取引について「銀行が提出する改善計画の内容などを見極めた上で判断したい」(東京都公債課)と慎重な立場を崩していない。

ガバナンス不在で事態を悪化させる
みずほの愚行

 そもそも、今回の問題は、顧客に暴力団が混入したときの対処方法をいかに改善するか、というだけの話のはずだった。

 それが、行政処分直後に記者会見すら開かず、批判が高まり会見を開けば説明が二転三転。揚げ句に否定していたトップの関与を後になって認めるというあり得ない対応で、銀行が自ら問題を国民的関心事にまで大きくしてしまった。

 おおかみ少年のようになったみずほ銀は、今やガバナンス(企業統治)の崩壊を指弾され、組織的な隠蔽すら疑われている。

 他行からは「事後対応を誤ったばっかりに」と、哀れむ声も聞こえてくる。ただ、図らずも露呈した暗部に目を向けてみると、あらぬ疑いをかけられているとも言い切れないところに、この問題の根深さがある。背景を探っていくと、さらなる問題融資の存在といった底深い闇が浮かび上がるのだ。