激動の時代で「キャリア自律」を促すにはどうすればよいか?日本IBM、ビズリーチ、サイバーエージェントに学ぶフィードバックの方法デザイン:McCANN MILLENNIALS

近年注目を集めている「キャリア自律」とは、本人が自分の価値観を理解したうえで、主体的にキャリアを開発していくことだ。社員のパフォーマンスやエンゲージメントを高めるためには、このキャリア自律が欠かせないとされる。
『大企業ハック大全』刊行に先駆けて、2021年10月31日に開催されたONE JAPAN CONFERENCE 2021では、井上裕美氏(日本アイ・ビー・エム株式会社 執行役員 兼 日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社 代表取締役社長)、酒井哲也氏(株式会社ビズリーチ 取締役副社長 ビズリーチ事業部 事業部長)、曽山哲人氏(株式会社サイバーエージェント 常務執行役員 CHO)をパネリストに迎え、藤本あゆみ氏(Plug and Play Japan株式会社 執行役員 CMO/ 一般社団法人 at Will Work 代表理事)司会のもと、激動の時代でキャリア自律を促す方法について議論した。(構成/矢野由起)

人生100年時代、DX、コロナ禍――社会変化がキャリア観を変えた

激動の時代で「キャリア自律」を促すにはどうすればよいか?日本IBM、ビズリーチ、サイバーエージェントに学ぶフィードバックの方法井上裕美(いのうえ・ひろみ)
日本IBM執行役員 兼 日本IBMデジタルサービス代表取締役社長
應義塾大学理工学部卒、2003年日本IBM(株)入社。2011年官公庁デリバリー部長に就任。2019年ガバメント・デリバリー・リーダー、2020年日本IBM(株)グローバル・ビジネス・サービシーズのガバメント・インダストリー理事に就任。同年、日本IBMデジタルサービス(株)代表取締役社長、並びに日本IBM(株)の執行役員に就任。社内の若手技術者や女性技術者のコミュニティで事務局長やリーダーとして若手育成にも携わる。プロジェクトマネジメント学会の理事を担当。また、NewsPicksのプロピッカー、及び日本のリンクトイン認定インフルエンサーとして発信。プライベートでは小学生の二人の娘の母でもある。

藤本あゆみ氏(以下藤本)キャリアの自律をテーマとしてディスカッションを始めるにあたり、まずはパネリストの皆さんのキャリアと社会の変化について伺いたいと思います。井上さんは、これまでずっと日本IBMでキャリアを築かれていますよね。同じ場所から見える景色は、どのように変わっていったのでしょうか?

井上裕美氏(以下井上):同じ会社にいても、非常に激しい変革が行われてきました。キャリアに関して今と昔とで大きく変化しているなと感じるのは、ロールアンドレスポンシビリティ(役割と実行責任)に対する考え方です。私が入社した頃は、ロールアンドレスポンシビリティを正しく見極め、その範囲をしっかり遂行することが、自分のキャリアスコープの確立につながると考えられていました。しかし最近は、自分のロールアンドレスポンシビリティの枠をどう超えられるかという点に注目が集まっています。

 たとえばDXの場合、技術でアプリケーションを開発するところ、デザインするところ、顧客体験を見出すところなど、すべての層がすべてうまくいって初めて成功するものです。そうなると、「レスポンシビリティを最低限実施したうえで、自分の枠を超えて他者とつながれるか」という点を意識する必要があります。自分のキャリアをより豊かにするためには、自分のロールアンドレスポンシビリティの枠を守っているだけでなく、枠を超えていかなければならない。個人のキャリアに対して重視されているポイントが、そのように変わってきているんです。

 その先に、必ずウェルビーイングの観点が出てくるでしょう。最近は「人生としてもっとも楽しい状態は何か」と自分で考え、自分で切り拓くことに重きを置いている方が多くなっています。企業もその変化に対応しなければなりません。

藤本:昔は企業がレールやラダーを用意していて、それに沿って進み、違うと思ったら別のレールやラダーに移ればよかった。しかし今は、レールやラダーをどう作るか一人ひとりが考えなければならなくなってきていますよね。酒井さんはいかがでしょうか?

酒井哲也氏(以下酒井):昔と比べて、3つの大きな変化があると思います。1つ目は、デジタル化によって情報がオープンになったこと。2つ目は、ダイバーシティという言葉が一般化した中で、多様な価値観が求められるようになったこと。そして3つ目は、コロナ禍によるコミュニケーションの中身や質が変わったことです。今と昔のどちらがいいとか悪いといった話ではないのですが、情報の取捨選択の量やコミュニケーションの質が大きく変わり、大変な時代になっているとは感じますね。

藤本:コロナ禍でテキストコミュニケーションが一気に増えましたよね。ここ2年は、多くの方が時代の急激な変化を感じたのではないでしょうか。曽山さんは、どのような変化を感じますか?

曽山哲人氏(以下曽山):転職する選択肢の数が、今と昔とで大きく変わりました。私が社会人1〜2年目だった頃は、転職の選択肢が圧倒的に少なかったですね。今は非常に多い。昔は第二新卒という言葉はほとんど聞かれず、私が社会人1年目で転職しようとしたところ、中途採用をしている企業からは「1年目は受け入れていない」と断られたほどでした。結局、新卒で受けられる企業を受けることになったんです。今は選択肢が増えましたよね。「選択肢がない」よりはずっといい状態ですが、半面、選ぶのが大変になったともいえます。

 時代背景の観点では、2つの変化がありました。1つは、人生100年時代になり、ウェルビーイングの期間が長くなったことです。寿命が長くなれば、さまざまなチャレンジができる。人生の幅が広がっているんです。1つの会社で20年勤めるとしても、人生で3〜4回は転職できる状況です。

 もう1つは、DXです。デジタル化によって、無駄な仕事が社会からどんどんなくなっています。そうすると、今後は人間が人間らしくある仕事、すなわち感情に向き合うことや人と人との対話、あるいはチームを作ることの価値が上がるでしょうね。

 この2つの流れを受けて、サードプレイスのニーズが高まるのではないかと考えています。長い人生の中で感情を大事にしようと思ったら、会社と家庭だけでは物足りなくなるはずです。そこでサードプレイス、第三の場所がその人なりにあっていいのではないかと思うんです。サードプレイスがあることで、選択肢や仲間とのつながりも増えます。

藤本:私は1社目が人材系の会社だったので、第二新卒が一般的ではない中で「転職しよう」と説得する難しさを感じていました。昔は人生の中で複数のキャリアを重ねるという選択肢がなかったですよね。それが最近は、「転職するか社内でキャリアを積むか」の二択だけでなく、新しい部署や会社を立ち上げたり、スタートアップに出向してまた戻ってきたりといった、サードプレイスを含めた選択肢が増えています。

 一方、選択肢が広がりすぎたことで、何を選ぶべきなのか悩んで立ち止まってしまう人も増えている気がしますね。以前であれば、会社の半径5m以内のコミュニケーションで「これでいい」と確信できていたことも、変化の激しい今は確信を得づらい状況です