デンマーク創業のブロック玩具メーカーが急成長を遂げています。プラスチックのブロックだけを扱い、かつては模倣品があふれて経営危機にも直面したレゴ。しかしその後、レゴは驚異の復活を果たします。現在の売上高は玩具業界の中で世界一。ブランド信用力も世界一。『レゴ 競争にも模倣にも負けない世界一ブランドの育て方』では、レゴの強さの真髄を描きました。本連載ではレゴを知るキーパーソンに強さの理由について解説してもらいました。今回登場するのは、世界にたった21人しか存在しないという、レゴ認定プロビルダーの三井淳平さん。プロビルダーから見たレゴの強みとは何なのでしょうか。(聞き手は蛯谷敏)。

■インタビュー1回目▶「世界にたった21人!認定プロビルダーが明かすほかにないレゴの強み」
■インタビュー2回目▶「試行錯誤を大量に繰り返せるから、レゴだと創造性が高まっていく」

レゴが教えてくれるAIにも負けない「人間の価値」レゴ認定プロビルダーの三井淳平さん

――コモディティだったブロックに付加価値を与えるレゴの経営は、現在、AI(人工知能)によってコモディティ化の危機にさらされている人間の価値を考える上でもヒントにもなりそうです。

三井淳平氏(以下、三井) 人間の価値が何かというテーマは、私自身もとても関心を持っています。そして、レゴブロックはそのテーマを考える上で興味深い素材だと思います。

 私自身、ほかの認定プロとの違いを意識している一番の特徴が、レゴモデルの制作にパソコンをなるべく使わないようにすることです。現在、レゴ作品の製作もデジタル化が進んでいて、多くのプロがレゴブロックのモデルをまずCG(コンピュータ・グラフィック)でデザインして、それを基に設計図を生成しています。完成した設計図を実際に組み立てる作業者に割り振り、それで大きなモデルを製作するのが、1つの流れとして確立されています。

 確かに、効率的ではあるのですが、この仕組みに甘えてしまうと、個人的には私の仕事が今後、簡単にAIに置き換えられるのではないかという危惧を抱いています。立体物をCGデータに変換して、作品にしていくだけだと、ビルダーの付加価値がどこにあるか、段々と分からなくなっていくと感じています。

 そこで私自身は、そうした方法をとらず、あえて自分に制約を課して作品作りを続けています。

――具体的には、どのように制作しているのですか?

三井 基本は、すぐにCGに置き換えず、自分の頭の中で構図を再構成しています。例えば、最近製作した「神奈川沖浪裏」という浮世絵にある『富嶽三十六景』の波を表現した作品があります。

レゴが教えてくれるAIにも負けない「人間の価値」三井さんがレゴで作成した『富嶽三十六景』

 この作品では、波の形はCGで作って変換すれば、ある程度再現できるのですが、あえてそうせずに、自分の中で咀嚼して、見せ方を工夫しています。細かいのですが、波の模様を描いて、波頭の部分を細かいパーツを組み合わせて、いろいろな形状で表現しています。これをCGで自動生成すると、おそらくぼやけてしまってうまく表現できなかったりするんです。

 絵画を見て参考にはするのですが、完全に再現するのではなく、細かいところは創意工夫をしながら、私なりの解釈で表現していく。波の特徴を際立たせるには犠牲にしなくてはいけない部分もあって、それをトータルとして一番かっこよく見えるように製作していきます。

 組み方にしても、ブロックの使い道は1つではなく、いろいろな組み合わせ方を考えていきます。四角い基本ブロック以外のパーツも要所要所に盛り込んだりしています。AIは、例えば、ブロックの方向が1方向であったり、使うパーツの種類が少ないほど、パターン化することが容易で、効率的にモデルを制作できるようになります。でも、それをあえてせずに、いわゆるAIが得意なものじゃないところで勝負するというイメージです。

――それがまさに、人間しか制作できない価値になっていくということですね。

三井 もちろん、このスタイルは規模の拡大は難しい。しかしその代わり、長期的な生き残りができるような作品づくりが可能になると考えています。

 無論、将来的にいわゆる、シンギュラリティーみたいなAIが組み方を自身で開発していく時代になれば、また変わってくるとは思います。しかし、現状はこうした組み方が最適だろうと考えています。

 アルゴリズムを与えてAIを活用することは否定しませんが、そこにプラスアルファとして人間のおもしろい組み方を要素として入れることが、今後さらに重要になっていくと思います。それがオリジナリティーというか、人の作品だという証にもなると考えています。

 ある意味で終わりがないわけですが、仮にAIに追い越されたとしても、私自身はレゴの製作は続けられると考えています。なぜなら、やっぱり創作する喜びや楽しみの部分は残ると思っていますから。

 囲碁や将棋の世界でも、AIとの勝負で注目を浴びましたが、プロ棋士がAIに負けても、将棋の人気というのは続いていく。AIに抜かされたところで、将棋を打つ魅力がゼロになったわけではないですから。純粋に、将棋をすることが人間にとって楽しいわけですよね。

――人間の好奇心は確かに代替できないですからね。

三井 レゴも同じで、作品を製作していく喜びはほかには代替できません。単なるブロックではありますけど、まだまだ奥が深い。色々な可能性を秘めている玩具だと思います。