オミクロン株の「経済損失」を最小化する、ワクチン3回目接種の方法Photo:PIXTA

前回は、コロナのオミクロン株には、変異以前の経験で学んでいるので、これまでよりうまく対処できる可能性があると書いた。今回は、ワクチンの入手と接種について考える。3回目のワクチン接種では、「ワクチン敗戦」といわれた経験を生かし、世界に先駆けた接種ができると期待していたが、そうはなっていない。ワクチン敗戦は続いているようだ。(名古屋商科大学ビジネススクール教授 原田 泰)

菅政権の「ワクチン敗戦」の教訓を
岸田政権は生かせるか

 ワクチンの1回目、2回目の接種では、日本は出遅れた。イスラエル、イギリス、アメリカが2020年12月あるいは21年1月から、フランス、ドイツ、イタリアが3月からなのに、日本で本格的に接種を始めたのは5月からである。イスラエル、イギリス、アメリカに5カ月遅れ、フランス、ドイツ、イタリアに2カ月遅れである。

 これまでのワクチンがオミクロン株にどれだけ有効かは分かっていないが、現在のところ効果はあるようである。

 また、フランス、ドイツ、イタリアに遅れた2カ月は、政治的にも大きな意味があった。菅首相は、「承認が2カ月遅れた。ワクチン対応が評価されなかったのが一番残念だ」と述べたという(『厚労行政の改革持ち越し コロナ対策後手、政権の急所に』日本経済新聞2021年9月10日)。日本は5月からではなく3月から本格的なワクチン接種ができたはずである。

 9月末には6割の国民が2回の接種を終え、感染者が劇的に減少した。2カ月早ければ7月末には感染者数が劇的に減少していたかもしれない。そうなれば、菅首相は退陣を余儀なくされることもなく、長期安定政権を築いていた可能性もあるのだ(ワクチン接種と感染者の関係は、原田泰『コロナ政策の費用対効果』ちくま新書、2021年、第6章参照)。

 この教訓は岸田首相にとっても重要である。早くワクチンを接種できれば長期政権を維持でき、できなければ早期退陣を余儀なくされる可能性もある。ワクチン接種には、国民の命と政権の命運がかかっているといえるのだ。

 だが、それにしては動きが遅いような気がする。まず、3回目の接種を6カ月間隔で行うという動きがあったが、準備できないという一部地方自治体の反対で、一律8カ月間隔ということになった。ところが、オミクロン株の登場で、6カ月に短縮と変更したが、さらにワクチン供給が間に合わないとして、厚労省は、原則8カ月に修正した(『3回目接種 自治体から接種間隔6か月に前倒し実施の要望も』NHKニュース、2021年12月1日、『ワクチン3回目接種「可能なところは前倒し」 木原官房副長官がTV番組で明言 岸田首相の意向』東京新聞TOKYO WEB、2021年12月5日)。