「偽りの夜明け」――白川方明・日本銀行総裁が『経済・金融危機からの脱却:教訓と政策対応』と題してジャパン・ソサイアティNYで行った講演(4月23日)で引いた言葉が、最近日本のメデイアでよく引用される。

 日銀のホームページにアップされている邦訳を抜き出してみよう。

 「日本経済は、1990年代の低成長期においても、何回か一時的な回復局面を経験しました。ただし、このことは、経済が遂に牽引力を取り戻したと人々に早合点させる働きをしたように思います。これは「偽りの夜明け」(false dawn)とも言うべきものでしたが、人間の常として、物事が幾分改善すると楽観的な見方になりがちです」

 世界同時不況と金融システム危機の震源地である米国で、景気底打ちの期待が高まっている。

 先週、米金融当局は、大手19銀行に対するストレステスト(特別検査)の結果を公表、ガートナー財務長官とバーナンキFRB議長は「今回の結果は投資家や世論に安心感を与えるだろう」と断言した。バーナンキ・FRB議長は、「米景気は今年遅くに上向くと期待している」と強気の見通しまで付け加えた。実際、株価も好感して8500ドル台を回復した。

 ストレステストとは、今後2年の間に米国経済がさらに悪化すると仮定し、失業率の増加など具体的なシナリオを数値とともに想定し、その場合の銀行資産の劣化度と自己資本の不足額を推計したものだ。その結果、19行で最大5992億ドル(59兆円)の損失が生じ、10行が計746億ドル(7兆4000億円)の資本不足に陥る可能性が指摘された。不足行は、半年以内に資本を増強しなければならない。独力で調達ができない場合は、政府が公的資金を注入する――。

 このテスト結果を、市場はしごく肯定的に受け入れた。自己資本不足が最も懸念された(そして、その予測通りの結果になった)バンク・オブ・アメリカ(バンカメ)にして、テスト結果発表直前の7日までの一週間で――発表の数日前から政府は意図的にリークしていたらしい――、株価は45.9%も上昇した。そして、テスト結果発表後も、金融株は軒並みさらに上がった。