6000軒片づけて分かった「捨てられない人」でも必ず片づく方法

20年以上にわたり、のべ6000件以上の家を片づけてきた「片づけのプロ」、seaさん。家事代行マッチングサービス「タスカジ」では「予約が取れない家政婦」と呼ばれ、この冬「セブンルール」にも出演するなど、人気が急上昇している。
そんなseaさんの片づけ術の集大成が、新刊『家じゅうの「めんどくさい」をなくす。ーーいちばんシンプルな「片づけ」のルール』。プロ歴20年以上のseaさんは、家が散らかる原因はすべて「めんどくさい」が放置された結果という結論に達した。その「めんどくさい」をなくせば、どんな家でも片づいて、しかもリバウンドしない。
なぜ、そんなシンプルな方法でうまくいくのか?
著者インタビュー2回目は、「捨てられない人」でもラクに片づけられる方法についてseaさんにうかがった。(取材・構成/樺山美夏、撮影/疋田千里)

片づけ=捨てることではない

――「断捨離」などの「モノを手放す」メソッドが広く支持を得たことで、「片づけとは不要なモノを捨てること」だと思っている方は多いです。ところがseaさんは、捨てられない人でも片づけられる仕組みを重視されていますね。

sea:片づけをご依頼いただいたお宅に伺っても「とにかくモノを減らさなきゃいけない」と思い込んでいる人がほとんどです。けれども、モノを捨てるのがどうしようもなくつらい人もたくさんいるんですね。

 捨てる片づけは、とても優れた方法です。それゆえに、実際にモノを捨てまくってスッキリした人の武勇伝も魅力的。でも、それだけが唯一正しい片づけ術なのだと思い込んでしまうと、モノを捨てられない人はどんどん追い詰められてしまいます。人によって、合うやり方は違いますから。

 私は今回の本で、「無理に捨てない片づけ」を提案しています。

「5秒」以上迷うものは、捨てなくていい

――なるほど、ではseaさんは依頼者様に「捨てましょう」とは言わないわけですか?

sea:はい、新刊の中にも書いたように、私は「捨ててください」とは絶対に言いません。片づけ作業では、まず依頼者様に「使うモノ」と「使わないモノ」を分けてもらうのですが、そのときに「考える時間は5秒まで」というルールでお願いしています。そして、5秒以上迷うモノはすべて「迷うモノ」として残してOK、捨てなくても大丈夫ですとお伝えしているんです。

 するとみなさん、プレッシャーから解放されてすごくホッとした表情をされますし、片づけの手が一気に進むようになります。

――モノを捨てられない人にとって、seaさんの寄り添うアドバイスは、自分のことを認めてもらったような気分になるでしょうね。

sea:モノに対する愛着は他人にはわかりませんよね。たとえば、家族で使っていた食器が4つ割れてしまって1つしか残っていない場合。「これ、使うと思いますか?」と聞くと「多分、使わないと思う」とおっしゃるんですけど、「じゃあ、捨てますか?」と聞くと「うーん……」と迷ってしまう。思い出がよぎったり、もったいないと思ったり、迷う理由はいろいろです。そういう中途半端な捨てられないモノって結構あるんですよ。

――「使う」か「使わない」かの基準に当てはまらないモノが意外にもたくさんあるのですね。

sea:何の未練もないモノだったら、「この機会にさよならします!」って思い切って処分できるけれど、思い出や愛着があるとそう簡単には捨てられません。そういうモノを無理に手放すと、胸が痛んで作業が止まって、片づける気持ちまで止まってしまうんですね。ですから、使わないけど捨てられないモノは、いったん「迷うモノ」として分けてもらって、それがどんなに増えても気にしないでくださいと言うと、仕分けがスムーズに進むのです。

 片づけるときは、この「分ける」作業がとても大事。ここが一番つらいので、途中で手が止まらないよう、悩む時間を最小限に抑えることが肝心です。人間の思考のキャパは、そんなに大きくありません。分けたモノを実際どうするかを考えるのは、そのあと。とにかく5秒以上は考えないようにして、「分ける」ハードルを超えてほしいと思います。

「迷うモノ」は見えない場所に封印すればいい

――ただ、ある程度はモノを減らして収納スペースに余裕を持たせないと、片づけにも限界がありませんか。

sea:そうなんです。でも、本人が納得していない状態でモノを捨てようとすると、どうしても葛藤が生まれてつらくなってしまいます。だから私は「捨てること」にはこだわらず、「圧縮して邪魔にならない場所にしまう」という提案をしています。

――どういうことですか?

sea:捨てることに抵抗がある方でも、そのモノが「どこにあるか」は気にしない方が多いんです。「捨てなくてもいい」「家のどこかにある」と思えるだけで納得して安心できるんですね。ですから「迷うモノ」は、ケースに詰め込んでコンパクトにまとめ、収納のデッドスペースに収めてしまいます。私はこのワザを「封印」と呼んでいます。

 もちろん、家の広さや収納スペースはさまざまですが、迷ったモノを封印する場所はほとんどの家で確保することができました。クローゼットの奥とか、棚の下や上とか、使われていないデッドスペースはよくよく探せば見つかります。だから封印したモノがふだんの生活を邪魔することはなく、そのうち存在さえ気にならなくなります。そして、引っ越しなどのタイミングで久しぶりに封印を解くと……。あれほど迷ったのが嘘みたいに「あれ、なんかもう、手放してもいいかも」とおっしゃる方がほとんどです。

――目に見えない場所にしまっておくと、だんだん気持ちも離れていくわけですね。

sea:そうです。封印は、「迷うモノ」を無理やり手放す痛みを緩和するためにするものなんです。なかには、使う見込みがない大量の粗品のタオルでさえもったいなくて捨てられない、といった方もいます。そういう方は「捨てたくない、痛みを味わいたくない」だけで、けっして「使いたい」わけじゃないんですよね。

 そういう方に「封印」を提案すると、迷いが消えてすごくスムーズに片づけが進みます。

――「迷うモノ」の扱い方はよくわかりました。「分ける」作業は具体的にどのように進めるんですか?

sea:私が片づけに伺った家では、片づける場所にあるモノを棚や収納ケースからいったんすべて出してもらいます。というのも、自分が持っているモノって、想像以上にみなさん把握できていません。使うか使わないか把握できていないモノがたくさんある家は、一度思い切ってすべてのモノを「分ける」作業をしない限り片づけられないんですね。

 出したモノの量を見ると、ギョッとして圧倒される方が多いのですが、その場ですぐに最速でモノを仕分けていただきます。そのコツが、先ほどお話しした「いま使うモノ」か「いま使わないモノ」か「迷うモノ」かを5秒以内に機械的に仕分けることなのです。

「迷うモノ」が集まると、なぜか自然と捨てたくなる

――分け方のコツはありますか?

sea:分けながら、「使うモノ」をカテゴリごとに「粗い山」にしていくのがコツです。洋服なら、トップスの山、ボトムスの山、アウターの山……というように、重ねてまとめるだけ。こうしておくと、後のしまう作業がスムーズに進みます。

 同様に「迷うモノ」の山も作ります。おもしろいことに「迷うモノ」がまとまると、全体にどんよりとした雰囲気が漂い「手放してもいいかな」という気持ちが芽生える方が多いです。「これはやっぱりもう似合わないから着ない」「使いにくい調理器具だからもういらない」と、痛みなく手放せるモノもあります。

――その仕分けが終わると、前回うかがった5つのめんどくさいポイントを改善した片づけの段階に進めるわけですね。

sea:そうです。仕分けが終わったら、直近で使うものから順に、できるだけ近くてサッとしまえる場所に収納していきます。収納場所を戻しやすい場所に設定できていれば、「めんどくさい」と思うことなく、自然とモノが戻せるようになります。

 使ったモノが戻せるようになれば、片づけを意識せずとも散らかることはありません。私の片づけ術は、モノを減らすことではなく、しまい方の仕組みを変えることに核があります。今回の本ではその具体的な方法をくわしく解説しましたが「捨てられない」「捨てるのがつらい」と悩む方にこそ、読んでいただけたらうれしいですね。

【大好評連載】
第1回 6000軒を片づけた家政婦が教える「片づけられない人」の問題点

6000軒片づけて分かった「捨てられない人」でも必ず片づく方法sea(しー)
大学卒業後に始めた家事代行サービスの仕事にどっぷりはまり、20年以上にわたって個人宅の片づけや掃除を行ってきた。
いままでに片づけた家は6000軒以上。家事代行マッチングサービス「タスカジ」では「seaさんが片づけてくれると、なぜか家族の仲までよくなる」と口コミで評判になり、「予約の取れない家政婦」と呼ばれるようになった。
メディア出演や執筆、片づけ講座の企画・開発など幅広く活動を行う。著書に『タスカジseaさんの「リセット5分」の収納術』(主婦と生活社)がある。新刊『家じゅうの「めんどくさい」をなくす。』を上梓した。
6000軒片づけて分かった「捨てられない人」でも必ず片づく方法