会社で新しいテックが導入されるとおじけづいてしまうのはなぜか?「社風」研究の第一人者が語るニール・ドシ氏「ツールを形作るのは人間だが、ツールによって人間が形作られる」 Photo:Courtesy of Neel Doshi

コロナ禍で企業がデジタル化を加速させ、リモートワークの普及で働き方が様変わりする中、米国では、バーンアウト(燃え尽き症候群)や「大離職」が報じられて久しい。今や有能な人材の確保には、従業員のウェルビーイング(幸福/心身の健康)対策が必須だ。生産性を最大化するための「トータルモチベーション」(総合的動機)を分析したベストセラー『マッキンゼー流 最高の社風のつくり方』(日経BP)を著した、ニューヨークのテック系スタートアップ「ベガ・ファクター」の共同創業者であるニール・ドシ氏のインタビュー。後編では、テックとウェルビーイング対策の最新トレンドや、次世代リーダーが果たすべき役割などをリポートする。同氏によれば、DX(デジタル変革)は「社風・企業カルチャー変革」でもあるという。エンジニアでもあるドシ氏が、人間重視のDXの極意を語る。(聞き手/ニューヨーク在住ジャーナリスト 肥田美佐子)

人事部内にIT部門が
組織化され始めている

――従業員のウェルビーイングは、もはや福利厚生の一環ではなく、企業に利益をもたらす経営戦略だという声もあります。ポストコロナ時代を見据え、テックと従業員のウェルビーイング対策が、かつてないほど重要性を増しているのはなぜでしょうか。

会社で新しいテックが導入されるとおじけづいてしまうのはなぜか?「社風」研究の第一人者が語るNeel Doshi(ニール・ドシ)
マッキンゼー・アンド・カンパニーの元パートナー。妻のリンゼイ・マクレガーと共に20年以上、著名な企業や組織団体において、社風や組織文化の変革を手がける。情報テクノロジーや学習プログラムの導入、人事システムの変革などによって、激変する経営環境に適応し、高業績を生み出す社風の構築を支援するニューヨークのテック系スタートアップ「ベガ・ファクター」を2人で創業。学校システムや非営利団体の経営にも携わっている。 Photo:Courtesy of Neel Doshi

ニール・ドシ(以下、ドシ) まず、テックとウェルビーイングという問題が一体化していることが挙げられます。

 まだ初期段階の動向ですが、とても興味深いことに、米国では、人事部内にIT(情報技術)部門が組織化され始めているという動きが見られます。

 今後、IT部門と人事部のチームは協働し、社則など、理想的な従業員の環境を創り出していく必要があるでしょう。

 というのも、組織は2つの問題を同時に解決しなければならないからです。1つ目の問題は、リモートで働く人々の生産性とパフォーマンスを向上させること。

 2つ目は、ポストパンデミックの世界において、従業員のモチベーション(動機)を高め、バーンアウト(燃え尽き症候群)を防ぎ、有能な人材の獲得と離職の問題を解決することです。

 もっとも思慮深い企業は、この2つの問題が重なり合っていて密接に関係していることを認識しています。だからこそ、テックとウェルビーイングという2つのトピックスに、さらなる注目が集まっているのです。

――企業にとって、未曽有のスピードで変化する時代を生き抜くにはデジタル化が必須ですが、従業員のウェルビーイングとは一見、両立が難しいようにもみえます。コーポレートアメリカ(米産業界)とコーポレートジャパン(日本産業界)は、加速するデジタル化と従業員のウェルビーイングの両立という難題をどのように戦略化し、両者のバランスを取っていくべきでしょうか?

ドシ 実に重要な問題です。大半の組織はテックに関する意思決定を行う際、テックと従業員のウェルビーイングに密接な関係があるなどとは考えもしません。