Jim O'Neill2022年の世界経済の見通しは? 30年以上ぶりのインフレに関する見解は? Photo Courtesy of Jim O'Neill

ブラジル、ロシア、インド、中国の4大新興国を「BRICs」(ブリックス)と名付けたことで知られるゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント(GSAM)元会長、ジム・オニール氏。退職後、英国キャメロン元首相の下で政権入りし、英財務省の政務事務次官を務めた経験も持つ。現在はエコノミストとして多くのメディアに出演するなど、多忙な日々を送るオニール氏。オミクロン変異株の感染拡大が懸念されている中、2022年の世界経済の見通しや、ポストコロナ時代の「パーパス」を伴う利益の追求、従業員のバーンアウトやウェルビーイングへの対策、そして、岸田新政権の「新しい資本主義」に関する見解などについて、リモートで話を聞いた。(聞き手/ニューヨーク在住ジャーナリスト 肥田美佐子)

パンデミックは多くの
哲学的・主観的な問いを提起した

――コロナ禍の2020年6月22日、あなたは米CNBCにリモートで出演し、「成功している企業の経営者は利益の最大化に執着するだけでなく、社会的変化に対処するために経営者としての役割を果たさねばならない」と指摘しています。「今回の危機は、企業や産業界、政府が雇用の質や企業内収入格差という問題への取り組み方などを再考するチャンスだ」といった趣旨のことも話しています。コロナ禍は、企業や経営者にどのような影響を与えたと思いますか。

ジム・オニールJim O'neill(ジム・オニール)
1995年、米ゴールドマン・サックスに入社。チーフエコノミストとしてグローバル経済部門の責任者を務める。2010年からゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント(GSAM)会長。2013年にGSAM会長を退任し、2015~2016年の間、英財務省の政務事務次官を務めた。 Photo Courtesy of Jim O’Neill

ジム・オニール(以下、オニール) 遠大な質問ですね。「たぶん、まだ成り行きを見守らなければならない」というのが、率直かつ、もっとも確固たる私の答えです。

 とはいえ、このパンデミックは、人生の価値や意味について、非常に多くの哲学的・主観的な問いを提起しました。

 在宅勤務の普及により、2年前に比べ、よりフレキシブルな働き方を重視する人が増えました。生活の質や、会社より個人としての満足感を大切にし、仕事の業績とのバランスの取り方をリセットしようとしているのでしょう。

 これは、壮大で非常に複雑な問題です。企業の指導層は細心の注意を払って、対処しなければなりません。

 パンデミックが起こらなかったとしたら、誰もがますます「利益の最大化」という強迫観念に取りつかれ、個人の生活の質や満足感など気にも留めなかったと思います。パンデミックは、私たちの社会に恒久的な変化をもたらしたのです。

 一方、親と同居していたり、自宅が狭かったりする若い世代は、在宅勤務が嫌でしかたないことでしょう。私が住むロンドンでも住宅事情が悪化していますが、家賃が高すぎるために若者の多くがロンドンに住めなくなっています。大半の若者はマイホームも買えません。

 多くの国々で、若い世代は長年の間、旧世代の犠牲になってきました。日本が筆頭に挙げられますが、英国でも、その傾向が強まっています。年金生活者が政府から手厚い保護を受けているため、財政コストが高まり、増税という形で、若い世代への負担が増しています。

――ポストコロナ時代に、企業の次世代リーダーが身に付けるべき視点は何だと思いますか。

オニール 答えの一部は、あなたの質問の中にあると思います。