頑張って目標を達成しても、次はさらに高い目標が現れる。必死に目標を追いかけ続けると、気づいたときは心底疲弊していた。そんな状況に陥っている人もいるだろう。自分の価値観が投影されていない目標をどれだけ必死に追いかけても、充足感は得られない。自分らしい人生を送るには、自分の価値観に根ざした真の目標を立てる必要がある。そのための書き方を紹介。
習慣化のプロとしてこれまで5万人を指導し、1000人以上をコーチングしてきた古川武士氏が、自分を整理するための「書くメソッド」を体系化した書籍『書く瞑想』から、一部を抜粋して特別公開する。

目標達成するほど苦しくなる人が<br />見落としている重大なことPhoto: Adobe Stock

進むも地獄? やめるも地獄?
目標達成するほど苦しくなる理由

 自分にとって何が大切で、何が不要なのかを考えるためには、価値観を明確にする必要があります。

 価値観を明確にするには、まず放電(気持ちを下げたこと)と充電(気持ちを上げたこと)を定期的に書き出し、それをまとめて俯瞰して自分の感情パターンを把握します。その上で、自分の傾向をもとに心の再奥で眠っている価値観を言語化していきます。

 しかし、実際の生活の中でやるべきことが山積みになれば、価値観だけでは対応できず、やるべきことの優先順位を判断しなくてはいけません。

 そこで必要なのが、理想・目標です。

 価値観と理想は、プラネタリウムの映写機と星空の関係に近いです。価値観で投影された星空が理想です。価値観が投影されていない理想・目標は、達成しても充足感がありません。

目標達成するほど苦しくなる人が<br />見落としている重大なこと理想は価値観が投影されたもの

 理想・目標があっても行動できなかったり、継続できなかったりするのは根気の問題ではなく、価値観に根ざしていないという根本的なズレに起因することが多いものです。

 また、価値観に根ざしていない目標は、達成しても蜃気楼のように満足感は消え失せて、空虚さが残ります。

 何のためにこれをやっているんだろうか? という想いがモヤモヤしてきますが、簡単に答えが見つからないため、次の目標をつくり新たな蜃気楼に向かって走り出すことでフラストレーションを解消しようとします。

 さらに、本来の目標と違うため、実現すればするほどに精神的につらくなり、進むも地獄、やめるも地獄という状態で苦しむ相談者を何人もコーチングしてきました。

 大切なことは、価値観─理想─目標が、つながっている状態を作ることです。

 これができると、汲めども尽きぬモチベーションで行動ができ、結果だけではなく、プロセスからも充足感が得られます。

 また、理想を描くことは、一時的なワークでは終わりません。

 価値観と理想は、一度書かれて完成するほど簡単なものではありません。

 最初に出されるものはぼんやりとして、しっくり感が浅いものになるでしょう。理想は特に抽象的すぎたり、それ以前にうまく書けないという方の方が多いものです。

 だからこそ、毎月1回ゼロベースで書くことで、少しずつ明確にしていきましょう。

 ポイントは「完成」ではなく、「探求」です。

 価値観と理想のビジョンを明確にするには、地道な自己対話の積み重ねと実践が重要で、自分の心の底からやりたいことが見つかるというのは、その累積の結果としての「結晶化された産物」なのです。

理想のビジョンの書き方

 では、どのように書けばいいのでしょうか。

 下の図をご覧ください。これを「理想のビジョンシート」と呼んでいます。

目標達成するほど苦しくなる人が<br />見落としている重大なこと「理想のビジョンシート」の見本

 まず「理想の○年後」を設定して、そのワクワクした未来を書きます。

 設定に迷ったら「3年後」にしてみることをお勧めします。

 なぜ3年後かというと、これは私が多くのコーチングしてきた経験と自らでも長年試した感覚から提案しています。1年後だと現実的な目標になりすぎてしまいますが、5年後だと想像がつかないという人が多いのです。

 ほど良く現実から離れて描けるワクワクできる未来を描くには、3年後がちょうど良いです。

 その際、理想のビジョンは、できるかどうかという現実的な算段や思考を一旦脇に置いて、どうなりたいか、どういう姿が理想的かをワクワクしながら書くことを何より重視しましょう。

 頭で書くというより、心のワクワク感から書くという感じです。「自分にできるだろうか」「大それたことは書かないでおこう」「他人から見て笑われるんじゃないか」と、書くトーンを下げてはまったく意味がなくなります。

 人に見せるわけではないのですから、実現可能性をあまり気にせずに書いていくのです。なぜなら、一番の目的は願望を知ることにあるからです。あなたが何を求めているのかを自らに問うことが大切なのです。

 ここに理想のビジョンを描く意味があります。

 先ほどの図に書かれているのは、ある事務職の女性の事例です。

 彼女は今、15年勤めている会社で日々仕事をしています。独立、フリーランスなど夢のまた夢、最初は書く自分が恥ずかしいぐらいだったのですが、ワークの意図を理解すると、描けるようになりました。

 これを描くと、「やっぱり自分は独立して自分で何かをやりたいんだ!」という願望を日増しに強くしています。これは現実逃避ではなく、真の願望だと確信しています。

 大切なことは内なる心との対話にあります。そして、これらを直近の目標・行動にして動いてみると、やっぱりそれは偽の理想ではなく、真の理想だという実感が自ら心の内側で確認できています。

 生き方、働き方の理想は内なる自分の声からしか描くことはできません。

 理想の3年後を思い描くには、妄想を楽しみながら理想の姿になりきって次の質問に答えてみてください。

・理想の3年後、あなたはどんな人生を送っていますか?
・どこに住んでいますか?
・どんな仕事・活動をしていますか?
・一番楽しいことは何ですか?
・あなたがこれまでの3年間で一番嬉しかったことは何ですか?
・今、一番やりがいを感じることは何ですか?
・趣味は何ですか?
・休日は何をして過ごしていますか?
・どんな人間関係の中にいますか?

 次に、「理想の3年後」を実現するための目標を、3つのテーマに分けていきます。

 目標は直近(3カ月とか1年以内)の目標を書くだけでも構いません。そして、価値観─理想─目標の一貫性と具体性が増すほど、あなたのやりたいことが明確になり発展していきます。

 この理想と目標がしっくりくれば、あなたのブレない軸と中心ができた感覚を味わえるでしょう。心の中にしっかりとした中核から生まれる秩序ができ上がるのです。

 しかしそのためには、これを何度も書き直すことが重要です。

 いきなり完璧なものを書くことは不可能です。まずは30%ぐらいの納得度で書ければ上出来です。むしろビジョンを磨いていく対話のプロセスにこそ真の価値があります。

 マンスリーで書くならば、1年で12回描くチャンスがあるわけです。こうすると徐々に描けるようになっていきます。

 価値観を言語化し、理想のビジョンシートに書いた後は、あなたにとって大切なこと、活動が明確になってきているでしょう。その後は実際に行動してみることで、しっくりくるのか違和感があるのかという感情を受け止めながら、内省と行動を発展させていってください。

【書き方のポイント】
・価値観マップ(価値観をキーワードとして言語化したもの)を眺める
・理想の○年後を設定する(3~5年ぐらいを目安にする)
・理想の状態はワクワクするものを設定する
・実現可能性を考えすぎず、まずは妄想を楽しみながら描く
・目標は、直近1年で目指すことを書くだけでいい
・書く時間の目安は「15分」程度

(本原稿は『書く瞑想──1日15分、紙に書き出すと頭と心が整理される』からの抜粋です)