デンマーク創業のブロック玩具メーカーが急成長を遂げています。プラスチックのブロックだけを扱い、かつては模倣品があふれて経営危機にも直面したレゴ。しかしその後、レゴは驚異の復活を果たします。現在の売上高は玩具業界の中で世界一。ブランド信用力も世界一。『レゴ 競争にも模倣にも負けない世界一ブランドの育て方』では、レゴの強さの真髄を描きました。本連載ではレゴを知るキーパーソンに強さの理由について解説してもらいます。今回は、本書の解説を執筆したBIOTOPE代表の佐宗邦威氏。戦略デザイナーとして活躍し、レゴシリアスプレイのファシリテーター資格も有する佐宗氏が本書で書き下ろした解説文を3回に分けて公開します。

解説文1回目>「拡大路線につまずいて経営危機、パーパスを見直して生き返ったレゴ」
解説文2回目>「「生産する組織」から「創造する組織」へ変われなければ企業は生き残れない」

レゴが教える、“遊び”こそAIに負けない人間の価値である『レゴ 競争にも模倣にも負けない世界一ブランドの育て方』の解説を執筆したBIOTOPE代表の佐宗邦威氏。戦略デザイナーとして活躍し、レゴシリアスプレイの認定ファシリテーターでもある

「根っこ」を掘り出していく

 企業はどのようにしてレゴのように独自の価値を生み出す創造する会社に進化できるのだろうか。

 企業経営ではどうしても、競合との比較など、他者目線に意識を奪われる。しかし、重要なのは、「自分たちの強みは何か?」「自分たちが過去ー現在ー未来を通じて生み出し続ける価値は何か」という、自社の蓄積してきた文化的リソースを探索し、改めて意味付けを繰り返すことではないだろうか。

 つまり、存在意義を憲法のように定めて終わるのではなく、生きた物語に変え、常にアップデートし続けていくのだ。

 日々、私たちは、顧客や競合など、外と向き合って過ごしている。その状況では自分たちの持つ能力を見つめ直すことはあまりないだろう。しかし、価値創造の局面では、自分たちの中に眠る能力に焦点を当てることで初めて、まだ見えない可能性が見えてくる。

 そのためには日常の業務の中で、自社の存在意義を再考するための余白をつくることから始めるといい。

 最初から結論を出そうとせず、現場を任せている社員や未来志向の役員らと議論を重ね、少しずつ自分たちの根っこを一緒に問い掛けていくのだ。

 レゴがもう一つ興味深いのは、ブロックそのものを、人や企業の存在意義を探索し、物語を生み出すツールとして利用できる、ということだ。

 その一例が『レゴ 競争にも模倣にも負けない世界一ブランドの育て方』の本編でも触れた「レゴシリアスプレイ」である。実は、筆者は2008年にレゴシリアスプレイの認定ファシリテーターの資格を取得している。まだ日本人ファシリテーターが10人未満だった黎明期のことだ。

「レゴシリアスプレイ」の詳細については本編に譲るが、レゴを組み立てることを通じて、自分の中に存在する考えを引き出し、最終的には企業の戦略まで策定することができる。

 この方法論の魅力は、人は手を動かしながらモノを作ることで、自分の中で無意識にやりたかったことや大事にしたかった考えに気づくことにある。「レゴシリアスプレイ」はいわば、現代版の箱庭療法だ。

 これを、多様なプレイヤーで一緒に実施すれば、それぞれのプレイヤーがどのようなことを考えているのかという関係性が見えてくる。するとレゴブロックの世界は、そのままリアルタイムで戦略をシミュレーションできる場に早変わりする。

 最初は特に明確な答えが浮かばなかったとしても、手を動かしながらブロックを組み立てていくと、潜在的に自分たちが作りたかったモノのイメージが見えることがある。さらに組み立てたモデルを、自分の口で説明していくと、ふと出てきた言葉によって、新しい気づきを得ることもある。「思いを口に出して初めて、自分の考えが理解できた」という体験が何度も起こるのである。

 ここから言えるのは、まず、やってみることの大切さだ。

「レゴシリアスプレイ」のワークショップの中でも、最も象徴的な問いの一つが「作ったパーツの中で、一番大事なパーツは何か」「それはどういうことか?」というものだ。せっかく作り上げたものをバラバラにして、その中で大事な一個を直感的に選ぶという行為は、まさに、存在意義を見つめ直す考え方そのものと言えるだろう。

 ビジネスの世界では長らく、事前に十分なデータを集め、検証されたアイデアを実行することが当たり前とされてきた。しかし、何が正解か分からないような現代では、試行錯誤を続けていくことこそ、新しい価値を生む。

 考えを頭の中だけにとどめず、まず形にしていくこと。情報化時代の大切な所作だろう。

AI時代の人の価値とは

 最後に、『レゴ 競争にも模倣にも負けない世界一ブランドの育て方』の序章で問いかけられていた「これからの人間の価値とは何か」について、私の考えを記しておきたい。

 AIの社会実装が進んだ時、果たして人間の価値とは何なのか。
 それは端的に言えば、「文化をつくり出す力」ではないだろうか。すなわち、集団として“群れる”ための工夫やアイデアを生み出す力である。

 人間は一人では生きていけない動物だ。歴史的にも人と人が集まり、群れることで繁栄を続けてきた。そして、この群れを束ねるために、さまざまな工夫を重ねてきた。

 情報の共有、暗黙のルール、社会規範……。

 人と人をつなぎ、互いを支え合う場を通じて育まれた結果が、文化なのではないかと思う。そう考えると、人が集い、繁栄を続ける場を文化に昇華できるのは、人間にしかできない。

 いみじくも、レゴは世界のどこでも、ブロックを通じてコミュニケーションができる。ブロックという共通言語を土台にファン同士をつなげ、新たな文化を生み出していくプラットフォームとも言える。

 AIとの付き合い方を模索する時代、人間の側面を伝える表現に「ホモ・ルーデンス」という言葉がある。人は遊ぶ生き物だ、ということだ。

 人は人と群れ、遊び、そして文化をつくっていく。そんな次の時代の人間性を具現化していくのが、レゴという会社の未来なのではないだろうか。