“危機”を“成長の機会”に変えて躍進したディップの「パーパス経営」Photo:PIXTA

「バイトル」「はたらこねっと」などを展開し、またたく間に人材サービス大手へと急成長を遂げたディップ。その躍進劇をインサイダーの視点から綴った『フィロソフィー経営 ロイヤリティが生んだディップ急成長のドラマ』には、幾度もの危機的状況を、「成長の機会」に変えて躍進してきたディップの「パーパス経営」があますところなく語られている。(一橋大学ビジネススクール客員教授 名和高司)

「パーパス経営」の実践

 今、世界でキーワードとなっている「パーパス」。筆者は、これを「志」と読み替えている。ディップのパーパスは何か?冨田CEOは、2015年に同社のフィロソフィーを言語化した。その中で、以下のような「企業理念」が謳われている。

「私たちdipは夢とアイデアと情熱で社会を改善する存在となる」

「夢とアイデアと情熱」は、まさにdipの三種の神器である。では、どのように社会を改善するのか?そして、ディップ自身はどのような企業像を目指すのか?
 
 2019年3月、冨田氏は社員総会で新たな企業ビジョンを発表した。

「Labor force solution company」
 
 そこには、2つの「X」が織り込まれている。1つ目がDX、すなわちデジタル・トランスフォーメーションだ。AIやRPAなどのデジタル技術が生み出す次世代の労働力を「デジタルレイバーフォース」と名付け、従来の「ヒューマンワークフォース」との融合を目指すという。

 本書では、冨田氏の思いが次のように紹介されている。

「ルーティン作業はデジタルレイバーに任せて効率化し、人には、その人の能力を発揮できる仕事を任せたほうが、職場も活き活きとし、労働環境もよくなっていきます。そうなれば、従業員は長く定着してくれて熟練度も高まります。やがて生産性は向上し、結果的に企業の競争力強化につながります。

 人間がもっと人間らしい仕事に取り組み、会社の生産性も業績も上がる。何よりも仕事が楽しく、幸せを感じられる世の中にしたい」

 デジタルは、人の仕事を奪う道具であってはならない。DXを「人間の復権」のための有効な手段にしたいというディップならではの夢、そして志(パーパス)の発露なのである。

 2つ目がSX、すなわちサステナビリティ・トランスフォーメーションだ。2020年には、社員の発案で「シャカツ!」プロジェクトを開始した。ディップのパーパスでもある「社会を改善する」活動である。

 たとえば「バイトルKidsプログラム」。小学生たちに、働くことの意味や仕事のやりがいを気づかせようというものだ。多くの社員たちが教壇に立って、小学校のキャリア教育を支援している。また、アルバイト従業員の時給アップを支援する「レイズ・ザ・サラリーキャンペーン」も以前から展開してきた。

 2021年、ディップは日本株の主要ESGインデックスである「FTSE Blossom Japan Index」に選定された。「社会を改善する」というパーパスを自分ごと化した全社員の活動が、高く評価された結果である。

 21世紀は、デジタル世代、そしてサステナビリティ世代が、未来を拓く時代である。社員の平均年齢が29歳のディップは、次世代の人財を中心としたDSX(Digital & Sustainable Transformation)時代の申し子だといえよう。