『ウィニングカルチャー 勝ちぐせのある人と組織のつくり方』では、組織文化の変革方法についてまとめました。本連載では組織文化に造詣の深いキーパーソンと著者の中竹竜二さんが対談。ともに学び合うオンライングループ「ウィニングカルチャーラボ」で実施したイベントの内容をまとめました。今回のゲストは、U理論などに詳しいオーセンティックワークス代表の中土井僚さんです。(聞き手/中竹竜二、構成/添田愛沙)

■中竹さんと中土井さんの対談動画はこちら>中竹竜二×U理論中土井僚「最強のチームをどうつくる?」組織文化の改革方を伝授!

組織文化の新潮流! オンライン環境だからこそ生まれるスーパーチームだってある『ウィニングカルチャー』著者の中竹竜二さん(左)とU理論に詳しいオーセンティックワークス代表の中土井僚さん(右)

中竹竜二さん(以下、中竹) 今日はU理論で有名な中土井僚さんとともに、組織文化やチームカルチャーを考えるきっかけをつくりたいと考えています。(中土井)僚さん、最初にU理論とは何か簡単に教えていただけますか?

中土井僚さん(以下、中土井) U理論は、MIT(マサチューセッツ工科大学)のオットー・シャーマン博士が提唱している理論です。リーダーシップや高いパフォーマンスを発揮している時に、人の意識の変容と外的な変革がどうしたら可能になっていくのか、という思考プロセスをU字のカーブで説明しています。

 具体的には、例えば企業が変革に迫られた時、仕組みを変えたことによって起死回生のV字回復をする企業もあれば、そのまま倒産してしまう企業もあります。両者は何が違ったのだろうか。目に見える変革は、内的な変容から可能になるのだけれど、その内側からの変革のプロセスが一体、何によって起きるのか。そのことを7、または12のステップで明確化し、そのステップを参考にしながら、対話や個人の内省のプロセスをデザインしてイノベーションにつなげていく、という理論です。

中竹 「内側からの変革」という意味では、『ウィニングカルチャー』のテーマであるチームや組織の文化も同じです。人材育成も、目に見えるトレーニングによってではなく内的な変化から始まります。

 組織の中には、「これを言ったらダメだ」とか「こうしなければいけない」という暗黙のルールがあります。U理論でも「こうしなきゃいけない」という暗黙の決まりを扱うことがありますか?

中土井 ありますね。「メンタルモデル」というのは、個人の行動を生み出している意識、無意識の前提のことです。例えばこの対談は、「(中竹)竜二さんが司会進行役で、私が質問を受ける側になって進める」という前提に立っています。暗黙のルールがあるわけです。そういうメンタルモデルは、個人だけではなく集団にもあります。

 メンタルモデルは、普段は意識をしていないのでなかなか自覚ができません。しかし、一旦それを自覚すると、なぜこんな状態をいつまでも続けているんだろうと疑問を抱き、「自分ごと」に変化するんです。だからU理論の中でも、集団のメンタルモデルを探求することがあります。

中竹 具体的にはどのように集団のメンタルモデルを意識化して自覚するんですか?

中土井 例えばアダム・カヘン氏(紛争解決ファシリテーター)という、U理論の実践家がいます。彼の方法だと、まずは、それぞれの出来事の背景に自分たちのどんな思い込みがあるのかを、みんなでリストアップしていきます。そしてそれを一つずつ、「これとこれは関係あるんじゃないか?」と話し合いながら、関連するメンタルモデルとくっつけて、まとめていくんです。そうすると、そのプロセスによって自分たちが今、はまり込んでいる状態が見えてくるんです。

中竹 これから私が探求していきたいのは、今回のようなオンラインのコミュニティや、そこに発生するカルチャーというのはどんなものなんだろう、ということなんです。

 私が『ウィニングカルチャー』で言っているチームカルチャーというのは、「メンタルモデルの根底にある見えない引力」のようなものです。例えば今日はウェビナーですが、この場にもカルチャーは存在しています。ウェビナーではなく、全員が互いに顔の見える形で配信したり、私たちの表情さえ見えない音声SNS「Clubhouse」でやったり、もしくは聴取料を1人10万円取ったりすると、そこにできるカルチャーはそれぞれ変わってくるでしょう。

中土井 僕もオンラインが主流になった社会にどんな文化が出現してくるか、とても興味があります。

 この1~2年間はリモートワークに慣れることがテーマでしたが、だんだんオンラインにおける綻びも見えてきています。生活習慣や人と人との距離感、文化がどんどん変わっていっている。組織においてもたくさん変化が起きているんじゃないかと思います。

 組織に属している人が、その組織を「自分ごと化」すると、組織の感覚が自分の体の一部になっていくような気がします。例えばトヨタに勤務している方は、やはり「トヨタ感」みたいなものを持っている。でも今後、新卒の時からオンラインがベースになっていくとすると、個人と組織のカルチャーはどうなるんでしょうか?

中竹 人間の五感のうち、オンラインで抜け落ちるのは嗅覚と触覚です。

 組織への帰属意識には、「仲間とともにこういう時間を過ごしたんだ」というストーリーが大事なんです。だから、もし匂いや肌感覚がなかったら、今までとは違う形の組織への帰属感覚が芽生えるんじゃないかな。

 一方で、人間は制限があった方が想像力を膨らますことができます。もしかしたらリアルな場でのチームビルディングより、オンラインの方が、スーパーチームをつくれるんじゃないか、という期待感もあります。

中土井 最近、聞いた話なんですが、ある会社は昨年、新入社員研修をすべてオンラインでやったそうなんです。すると新卒の人たちが、最初オンラインでの関わりだったから、お互いに緊張しないでフランクにやりとりができた。ある程度、オンラインでコミュニケーションの土台ができた上で対面すると、人間関係が深くなって良かったと言っている、と。それを聞いてすごくおもしろいなあ、と思いました。

 いきなり対面で出会うと緊張感が高い。だからオンラインで慣れて、パーソナルスペースがその人なりに確保できた後に、対面で会って空気感を醸成する。こういう手もあるのかもしれません。

中竹 コミュニケーションのステップとして、最初にオンラインで、というのは有効かもしれませんね。リアルとオンラインのハイブリッドでやりますという前提であれば、オンラインでのコミュニティ作りは、今までにないいい形になるかもしれません。
(2022年1月21日公開予定の記事に続く)