『ウィニングカルチャー 勝ちぐせのある人と組織のつくり方』では、組織文化の変革方法についてまとめました。組織文化とは、組織の中で共有されている無意識の価値観のこと。本書では無意識の中にある価値観をいかに知り、変え、定着させていくかという方法をまとめています。本連載では組織文化に造詣の深いキーパーソンと私が対談。共に学び合うオンライングループ「ウィニングカルチャーラボ」で実施したイベントの内容をまとめました。今回のゲストは、U理論などに詳しいオーセンティックワークス代表の中土井僚さんです。(聞き手/中竹竜二、構成/添田愛沙)

■中竹さんと中土井さんの対談動画はこちら>中竹竜二×U理論中土井僚「最強のチームをどうつくる?」組織文化の改革方を伝授!
■中土井僚さん対談1回目の記事>「組織文化の新潮流!オンライン環境だからこそ生まれるスーパーチームだってある」

「勝て」ではなく「楽しめ」と言うリーダーが成果を出すワケ『ウィニングカルチャー』著者の中竹竜二さん(左)とU理論に詳しいオーセンティックワークス代表の中土井僚さん(右)

中土井僚さん(以下、中土井) 中竹さんは『ウィニングカルチャー』で、どうして組織文化を本書のテーマにしようと思ったんですか。

中竹竜二さん(以下、中竹) 早稲田大学ラグビー蹴球部で主将になった時に、リーダーシップでチームを引っ張ろうとも思ったけれど、私には合わなくて、フォロワーシップを重視してやってみたら、まあまあうまくいったんです。

 フォロワーシップというのは、冷静に考えてみたら、最初から自分の力の限界を認めているということです。だから「人の力をいかに借りるか」ということが重要なんです。これは「マネジメント」と同じなんですよね。

 それで、20代からいろいろな人材育成のメソッドやフレームワークをつくりました。再現性を持たせるために、監督時代にはチームでも実践してみたり、人材育成の研修として企業に導入してもらったり……。

 どうやってフレームをつくったらうまく回るのかということを考えてやってきたんです。そのうちに、人やチームをコントロールしているのは、その組織が持ってる空気やメンタルモデルなのではないかと考えるようになってきました。

 私は、ラグビー界や体育会系の集団や組織が持つ、独特の閉鎖感がずっと苦手だったんです。本心ではそう思っていないのに、まるでそう思っているように振る舞わなければならない空気とか、誰かが操っているような雰囲気とか。このネガティブな引力みたいなものは一体何なんだろう、ということを探求したかったんですね。

中土井 (中竹)竜二さんは、誰しもハッピーじゃない空気をつくりたいわけじゃない、それを変えられる力が人間にはあるはずだ、という可能性を人に見ているんでしょうね。

 会社の仕組みや構造ではなく、会社の文化が問題だと言う人に限って、会社にコミットしていない人が多い気がします。私は、コミットするということは「それを可能にするんだ」「自分がその一員なんだ」という感覚であり、それはコミットしているかしてないかという「0か1か」のどちらかだと考えています。

 そして、文化はつくるものというよりも、一人ひとりが会社の価値を上げるようにコミットしていけば、自ずと生まれるものだと思っています。

中竹 サッカーで有名なFCバルセロナでも、いかに自分が文化の設計者になっていくか、自分が文化を作る責任者だという「自責」の意識があるかどうかが、理想のチームをつくっていく一つの指標だと言ってました。

中土井 うちの会社のメンバーは、自分と一緒に働くことを選んでくれている、と思っています。だから、「え? 中土井さんのところで働いてるの?」って疑問に思われるような自分じゃダメだ、「中土井さんと働いていていいですね」と言われるような自分でありたいと思っています。

 この人と、人生の同じ時間を過ごすのがムダだと思われるような自分だったら、文化なんて生まれませんよね。

中竹 それはまさに「自分ごと化」しているということですね。

 チームカルチャーや組織文化は、「組織が暗黙に投げかけている問いだ」と『ウィニングカルチャー』の中で書きました。この組織ではこういう結果を出すことが求められたとか、お客さんに対して誠実かとか、仲間のメンバーを大切にしたかとか……。何をどう問われてきたかということが、その組織が持っている大事なカルチャーだと思います。

 組織文化はどこにでもあると思いますが、問いすら立っていない、何も問われないという組織はもったいないですね。

「勝て」ではなく「楽しめ」と言うリーダーが成果を出すワケPhoto: Adobe Stock

中土井 ティール組織の考え方の中で、「組織は組織で、独自の目的を持っている」という発想がおもしろいんです。組織の目的と同じように、組織は組織の痛みを持っているのではないかと思うんです。

中竹 組織の痛みを『ウィニングカルチャー』では組織のシャドー(心の闇)と言っていますが、組織もネガティブな現象をしっかり外に吐き出した方がいいですね。

中土井 マネジメントやコンサルティングには、組織が癒されようとしているプロセスに立ち会っているという感覚があります。

中竹 『ウィニングカルチャー』の「ウィニング」というのは、必ずしも「ゲームに勝つ」ことだけではないんです。

 サッカーのFCバルセロナでは「more than club」、つまり「クラブ以上の存在になる」ことが、ラグビーのオールブラックス(ラグビーニュージーランド代表)では子どもたちに夢を与えていくことが、彼らにとっての「勝ち」を表します。だから、「ゲームに勝つ」とか「チームが強くなる」ということは、自分たちの存在意義を高めていった結果としてついてくる、ということなんです。

 我々は目の前の数字で表される価値に安易に飛びつきますが、本当の「勝ち」とは何だろうか、それを考え直さないとカルチャーはつかめない、ということを、『ウィニングカルチャー』で発信したかったんですね。

中土井 弊社では、経営理念を大事にしてきましたが、売上目標は掲げたことがありません。でも経営理念を大事にし続けていたら、結果として売上利益が出るんです。勝とうすることが結果を生むのではなく、自分たちが大切にしているものを体現し続けていくことが常勝をつくる、ということは大事な逆説だと思います。

中竹 スポーツの世界でも、勝てないコーチは「勝て、勝て」と選手に言います。逆に勝てるコーチは、「I don’t know」(分からない)、「I can’t do it」(できない)が口癖で、弱さをさらけ出すことができる。そして、本当にプレッシャーがかかる時には選手に対して「ベストを尽くそう」「楽しもう」「貴重な機会だ」と言います。

 スポーツの勝ち負けはパイの取り合いだから、たとえ「勝て」という指示を出しても、勝負の半分はコントロールできないんです。つまり、「常勝コーチ」はアンコントローラブルな(コントロールできない)発言をしない。それが結果的に勝ちに繋がっていく。

中土井 「勝て」と言うコーチは、プレーヤーを本当の意味では尊重していないんだと思います。プレーヤーが勝つための手段として存在している。「楽しもう」「ベストを尽くそう」と言うコーチは、個人としての選手の人生の一場面として見ていて、それがすばらしいものであれ、と言っているのではないでしょうか。

中竹 そうですね。その人をいい状態に持っていけるかどうかは、どれだけ相手をリスペクトしてるかが重要なんです。でも「勝て」と言う人たちは、意外と本人が不安なんです。自分よりそのゲームをコントロールしうる選手に対して「勝て」と言うんですから。

中土井 マネジメントの場面で、「個人を尊重する」と話すと、「それじゃあ結果が出なくなるんじゃないですか」とよく言われるんです。でもそれは逆だと思う。部下の人生にとって自分の部下である時間がすばらしいものであるために、自分は上司として何ができるのか。そう考える上司の元で働いている部下のパフォーマンスが上がらないわけがありませんから。