積水化学工業(以下、積水化学)は2030年に業容倍増を目指す長期ビジョンを掲げており、ビジョン達成のためにデジタルトランスフォーメーション(DX)を加速させている。その目玉となるのが、いわゆる「2025年の崖」を克服するための基幹系システムの刷新であり、それと同時に懸案だったサプライチェーンDXの実現へ向けた大きな一歩を踏み出した。積水化学はなぜサプライチェーンDXに踏み切ったのか。具体的には、それをどう進めているのか。同社のサプライチェーンDXを支援するオープンテキストのインダストリー営業本部本部長、菅原勇人氏に聞いた。

サプライチェーンDXを阻む、幾つもの壁

 コロナ禍は、次世代サプライチェーンへの変革が物流・調達部門や事業部門レベルの課題ではなく、全社的な経営課題であることを浮き彫りにした。世界的なサプライチェーンの混乱によって、生産や販売が停滞したり、原材料費や物流費が高騰したりしたことで、経営に大きな打撃を受ける企業が続出したからだ。

 サプライチェーンの混乱は、これまでも東日本大震災やタイの洪水など、局地的に生じることはあった。しかし、今回はグローバルな経営リスクとして表面化したことから、サプライチェーンDXに取り組む動きが加速している。

「日本の大手企業は、サプライヤーとの取引データをEDI(電子データ交換)化していますが、現状では“点と点”を結ぶレベルにすぎません。事業部門や国内外の各拠点、業務をまたいで、サプライチェーンを“面”として捉えることができている企業はほとんど見当たりません」。オープンテキストの菅原勇人氏はこう話す。

 サプライチェーンをデジタル化し、可視化できていれば、例えば、部品ごとの生産・在庫・出荷・配送などの状況を即座に把握することができる。過去のデータをさかのぼって傾向分析すれば、サプライチェーンのボトルネックを見つけることも可能だ。また、需給動向に応じて生産や在庫を柔軟に調整することもでき、ある地域では在庫が枯渇している一方で、他の地域では余剰在庫があるといった事態も解消できる。

「データを利活用すれば、すぐに打ち手を見つけられますし、需要予測や今後のプラン作りにも役立ちます」(菅原氏)。これこそが、“面”で捉えた分析であり、サプライチェーンの高度化、DXに重要な視点だ。

オープンテキスト
インダストリー営業本部 本部長
菅原 勇人 氏

 これまでなぜ、サプライチェーンDXが進まなかったのか。そこには幾つかの理由がある、と菅原氏は言う。一つは、小規模な取引先との受発注をいまだにFAXや電話、メール添付などで行っており、デジタル化されていないこと。もう一つは、グローバルに、かつ事業部を横断したEDIの仕組みを構築するのが難しいことだ。

 その背景には、電機や自動車といった業界ごとに異なる受発注データの標準フォーマットや企業固有の業務プロセスの存在がある。さらには、大企業が取引するサプライヤーは数千、数万の単位に上り、通信インフラやITシステムは新しいものから古いものまでが混在している。それらに全て対応するには、膨大な資金と労力が必要になる。

 では、積水化学はサプライチェーンDXを阻むこれらの壁をいかに克服したのか。次ページで詳しく紹介する。