ビジネスや人生の「ありたい未来」を、今と非連続な「SF」として妄想し、そこからバックキャスティング(逆算)して、「今」を変えていく ――。今「SF思考」がじわじわとビジネスシーンに広がっている。本連載では、『SF思考 ビジネスと自分の未来を考えるスキル』の共著者であり、自らファシリテーターとして多くのSF思考ワークショップを開催してきた三菱総合研究所シニアプロデューサーの藤本敦也氏に、SF思考の実践事例を通じて、具体的な効果を考察してもらう。第1回では、国立研究開発法人産業技術総合研究所で、2021年に実施された事業創造プロジェクトを紹介する。(構成/フリーライター 小林直美、ダイヤモンド社 音なぎ省一郎)

研究者を起業家に変えたSF思考

 新しいことを提案すると、鬼のようなツッコミが殺到する。「前例がない」とやんわり却下される。「計画が甘い」と否定される……。こういうのって、ビジネスパーソンの「あるある」ですよね。残念ながら、日本企業(特に大企業)でよく見かける光景です。とにかく、新しいことを始めようとすると、それまで穏やかだった社内に、逆風が吹き荒れます。

 SF思考で、その逆風を追い風に変えられる! 今回はそんな事例を紹介したいと思います。産業技術総合研究所(産総研)のベンチャー開発センターで実践されたSFプロトタイピングです。

 産総研といえば、さまざまな分野の最先端の研究が行われている日本最大級の公的研究機関です。近年では特に、それらの研究を実社会につなげる「橋渡し」に力を入れていて、研究者の起業を後押しする動きが活性化しています。日本政策投資銀行(DBJ)と連携し、2020年7月に創設した「技術事業化サポートプログラム AIST&DBJ VENTURE2050」も、そんな取り組みの一つ。21年8月、この枠組みを活用し、産総研の主任研究員・大曲新矢さんの「ダイヤモンドエレクトロニクス」に関する研究の事業化が検討されることになりました。

 ダイヤモンドといえば、宝飾品や工業材としておなじみですよね。このダイヤモンドが今、シリコンに代わる「究極の半導体材料」として、エレクトロニクス分野で注目されています。高性能な「ダイヤモンド半導体」が普及すれば、めちゃくちゃ省エネで、めちゃくちゃ高速で、めちゃくちゃ小型の、夢のデバイスが生まれるかも! 大曲さんたちの研究は、「未来のゲームチェンジャー」になる可能性が高いのです。

 このプロジェクトのコーディネーターは、DBJイノベーション推進室の白谷俊博さん。ここに、産総研のベンチャー開発センターのスタートアップ・コーディネーター跡部悠未さん、同センターの篠原彬さんが加わり、大曲さんの研究の事業化を支援する4人のチームが立ち上がりました。

SF思考で描いた未来が、起業家をエンパワーする左から白谷俊博さん、跡部悠未さん、篠原彬さん。大曲新矢さんはオンラインにて取材に参加