鬼伝説の故郷丹後にて
地元の酒米で醸す蔵に新しい風

酒蔵の売店酒蔵の売店 Photo by Yohko Yamamoto

 平安時代、鉞(まさかり)担いだ金太郎こと坂田金時も加わった討伐で、滅ぼされたと伝わる鬼が酒呑童子(しゅてんどうじ)。丹後半島の大江山が本拠地だ。

 その酒呑童子の名を冠した酒を醸すのが、京都府宮津市で1832年に創業したハクレイ酒造。

 仕込み水には、大江山に連なる由良ヶ岳の不動の滝から引いた超軟水を使い、酒の味はまろやかだ。

 1999年には丹後の地で初めて山田錦の栽培に挑んだ。栽培指導の第一人者であった永谷正治先生に指導を受け、農薬と化学肥料を減らした契約農家の山田錦が見事に実り、以後、鑑評会の出品酒はこの山田錦で仕込み、地名にちなんで「香田」と命名された。その他にも、京都オリジナルの酒米である祝(いわい)や、京の輝きでも醸す。

 中でも、熱烈なファンがいるのが鬼伝説の故郷、大江町毛原の棚田で育てた五百万石で醸す酒「大鬼」だ。

 インパクトのある木版画のラベルは、酒米生産者が1枚ずつ手刷りするという熱の入れようで、春の生原酒は黒、火入れした酒は赤の木版画に変わる。

 そんな老舗蔵が、2020年に吟醸の華やかな香りのスパークリング飲料を発売し、周囲を驚かせた。

 実は、18年に「こどもびいる」や全国の地サイダー製造元で有名な友桝ホールディングスへ事業承継し、清涼飲料水で培われた技術を応用した共同開発品だ。

「日本酒を飲まない人でも吟醸の香りが楽しめる爽やかなテーブル飲料です」と12代目を継いだ友田諭さん。

 おいしさの追求に新しい風が吹く。

純米吟醸 生原酒 大鬼純米吟醸 生原酒 大鬼
●ハクレイ酒造・京都府宮津市由良949●代表銘柄:香田、酒呑童子、白嶺、HAKUREI SPARKLING(WATER・SAKE)●杜氏:山本桂司●主要な米の品種:山田錦、五百万石、祝、京の輝き