絶頂トヨタの死角#1Photo:Bloomberg/gettyimages

血は水よりも濃し──。トヨタ自動車が創業家である豊田家本家による支配力を急速に高めている。あえて“トヨタムラ”のフィロソフィーや流儀を貫くことで社員の求心力を維持し、表層的なグローバル経営とは一線を画しているようにも映る。だが近年、豊田章男社長による独裁の弊害が「現場のひずみ」となって噴き出すようになってきた。電動化・脱炭素化により、折しも自動車業界はモビリティの価値が一変する大動乱期に突入したところだ。もはやトヨタの敵は、自動車メーカーだけではない。ITジャイアントであり、テスラであり、あらゆる水平分業プレーヤーである。特集『絶頂トヨタの死角』の#1では、常勝集団トヨタの苦悩を明らかにする。(ダイヤモンド編集部副編集長 浅島亮子)

役員を奥田元会長時代の「6分の1」に削減
階層フラット化の副作用が露呈

 トヨタ自動車では、毎週火曜日に主要プロジェクトの進捗などを社内で共有するための「大規模ミーティング」がオンラインもつないで開催されている。母体は20人程度の役員が出席するクローズドな会議体だったのだが、豊田章男・トヨタ社長の意向により海外の中堅幹部も含む200人以上が参加する大掛かりなイベントになった。

 かつての役員会議では、プロジェクトを発表する事業部門による役員への根回しが頻繁に行われていた。あるトヨタ関係者は「自分のボス(役員)のプレゼンテーションが役員に受け入れられるように“多数派工作”が必須だった。プレゼンの途中で、ある副社長に『それはいいね』と合いの手を入れてもらうよう事前に約束を取り付けたこともあった」という。こうした大企業病ともいえるプロセスを介して経営の意思決定がなされ、会社の大きな方向性が決まっていたのだ。

 さらに遡れば、「奥の院」で意思決定がなされていた時代もあった。2000年代前半、豊田家から章一郎氏(章男社長の父)、達郎氏(章一郎氏の弟)、章男氏の3人、非創業家からは奥田碩氏、張富士夫氏、渡辺捷昭氏の歴代社長3人が出席し合議制で最終判断が下された。ただし、「張氏がだいたい豊田家側につくので、結論は決まっていた」(トヨタ関係者)との証言もある。

 章男氏が会議を200人の中堅幹部に開放したのも、有名無実化した会議体を活性化しようという意図があったのかもしれなかった。それに先立ち、20年以降に古参の執行役員を大量に削減され、現在は「最高幹部10人体制」となった。役員の階層をフラット化することで旧弊を打破し経営幹部の若返りを図ったものだった。

 ところが、である。最高幹部役員で章男氏に忌憚なき意見を言える人物はほぼいない。また「200人が参加する会議では社長へのアピールの場になりがちで、重要な意思決定がなされることはない。階層をフラット化して自由闊達に議論をするというのは表向きの理由で、章男氏が何事も一人で決めたい、豊田家による中央集権を強めたいというのが本音だったのでは」とあるトヨタ社員は疑問を呈する。

 ともかくも、役員の削減や階層のフラット化が、幹部社員から意思決定に関与する機会を奪う結果になってしまった。意思決定機関としての会議体は形骸化したも同然で、組織改革の“副作用”が生じてしまったと言える。

 近年、章男氏ら豊田家による経営支配はますます強まっている。次ページでは、創業家支配の高まりを象徴する「三つの根拠」を示すと共に、創業経営のリスクについても取り上げる。