絶頂トヨタの死角#10Photo:Bloomberg/gettyimages

トヨタ自動車の豊田章男社長は、強力なリーダーシップで、他の自動車メーカーやIT企業などとの提携を次々と打ち出してきた。だが、トヨタの創業家出身という理由から学校でいじめられたり、社内で腫れ物に触るような扱いを受けたりした章男氏は元来、猜疑心が強い性格とみられる。他社との協業は、章男氏と提携先の経営者との信頼関係がなければ成果が出にくい。特集『絶頂トヨタの死角』(全15回)の#10では、八方美人とやゆされることもあるトヨタによる “仲間づくり”の実態に迫る。(ダイヤモンド編集部 千本木啓文)

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 本来、経営者は“孤独”なものである。それでも、本人が感じているであろう孤立感、疎外感の強さにおいては、トヨタ自動車の豊田章男社長は突出しているかもしれない。

 章男氏は投資家説明会でトヨタの社員だった時代を振り返り、こう語った。

「私はアンタッチャブルだった。他の社員は、『社長(豊田章一郎氏)の息子におべっかを使って』と言われるので私に近づくのを嫌がる。私を叱ったりしようものなら父親にチクられるんじゃないかと(恐れ)、それも嫌がられる。一番いいのは私と関わらないことだ」

 こうした悩みは創業家出身者の宿命かもしれないが、章男氏は「創業家はうまく経営して当たり前、失敗すれば、それ見たことかと言われる」(同氏)プレッシャーを人一倍強く感じていたようだ。

 そんな章男氏が容易に人を信用できなくなったとしても無理からぬことである。同氏は時に、トヨタという会社自体に対してすら不信感をあらわにする。トヨタ車の大規模リコール問題で2010年、米国議会の公聴会で証言した当時について章男氏は、「独りぼっちだった。会社のサポートがあるわけでもなく(中略)私を辞めさせるためのものなのかな(と思っていた)」と心情を吐露している。

 トヨタで制裁人事や元秘書など“身内”の重用が行われていること(詳細は本特集#2『トヨタ「御曹司の世襲前提人事」の内幕、恣意的登用と冷遇で東大卒・エース人材が流出ラッシュ』参照)にも、章男氏が体験した創業家出身者としての苦悩が色濃く反映されているとみられる。

 章男氏のパーソナリティーは社内の人事だけでなく、他社との協業においても発揮される。

 次ページでは、章男氏の人柄や人脈といった視点から、トヨタという大企業の“友達づくり”、企業連携の在り方をひもといてみたい。