なぜ、企業はダイバーシティ&インクルージョンを推進しているのか?

2010年代の半ばから、“ダイバーシティ推進室”を設置する企業が増えている。「ダイバーシティ&インクルージョン」「ダイバーシティ・マネジメント」……そもそも“ダイバーシティ”とは何か? なぜ、人事施策のキーワードになっているのか? 経済産業省が推し進める「ダイバーシティ経営」の実践は、誰がどう行うべきなのか? ダイバーシティ&インクルージョンやリーダーシップ開発をテーマに研究・教育活動を行っている酒井之子さん(桃山学院大学ビジネスデザイン学部ビジネスデザイン学科 特任准教授)に話を聞いた。(ダイヤモンド社 人材開発編集部)

“攻め”と“守り”のダイバーシティ・マネジメントとは?

 日本語では「多様性」と直訳される「ダイバーシティ」は、「インクルージョン(受容・包摂)」というコトバと組み合わせた「ダイバーシティ&インクルージョン」で耳目に触れることが多い。また、ビジネスでは、「ダイバーシティ・マネジメント」「ダイバーシティ経営」というコトバも目立っている。「ダイバーシティ」(以下、「多様性」と同義)の対象は、性別・人種・民族・年齢といった、外見で識別しやすいもの(*1)から、価値観・職歴・知識・思考性といった、外見では分かりにくいもの(*2)まで幅広い。

*1 「表層的ダイバーシティ」とも言われるもの
*2 「深層的ダイバーシティ」とも言われるもの

酒井  「ダイバーシティ」は、表層的・深層的の両面でさまざまな人が集団にいる状態で、「インクルージョン」はそれらさまざまな人がお互いを認め、尊重し、いろいろな意見を受け入れることといえます。「ダイバーシティ・マネジメント」は多様な人材を組織に受け入れ、企業価値を高めていくマネジメントのことですが、日本企業で取り組む主な理由は、大きく分けて2つの目的が挙げられます。ひとつは、これまで主要な人材とされてきた新卒採用・日本人の男性で正社員中心の人材構成の変化です。これらの人材は、長期雇用を前提にフルタイム勤務で、かつ、残業や転勤が可能という特徴を持ってきましたが、そうした人材以外、たとえば、子育てや介護のライフイベント、地域活動・学業との両立などで、時間や場所の制約がある社員が増えてきています。

 もう一つの理由は、グローバル化や急速な技術革新、競争の激化、不確実性の増大といった経営環境のなか、企業は新しい経営価値やイノベーションを生み出すために、多様なスキルや異なった価値観・経験、幅広い知見を持つ人材を求めていることです。

 前者は、社員の個々の事情への対応や、限られた人材を活用するという視点で、守りのダイバーシティ・マネジメント、後者は、新しいものを生み出す・競争力を強化するという視点で、攻めのダイバーシティ・マネジメントと捉えることができるでしょう。

「ダイバーシティ・マネジメント」はダイバーシティ&インクルージョンの推進であり、「守り~」と「攻め~」のどちらに重点を置いているかは企業によりけりです。また、同じ企業内でも、経営者や人事担当の方は「攻め~」と「守り~」の両輪や、「攻め~」の姿勢を明言されることが多いですが、現場で働いている人は、「そういう時代らしい」「職場にはいろいろな人が既にいるから」といった消極的な考え方でダイバーシティ&インクルージョンを捉えているケースも見受けられます。

なぜ、企業はダイバーシティ&インクルージョンを推進しているのか?

酒井之子 (さかい ゆきこ)

桃山学院大学ビジネスデザイン学部ビジネスデザイン学科 特任准教授

1986年、筑波大学卒業後、日本アイ・ビー・エム株式会社に入社し、社内システムの開発を担当。その後、コンサルティング事業部を経て、人事部リーダーシップ研修部長に就任。2013年にコニカミノルタジャパン株式会社に転職。人財開発部長兼ダイバーシティ推進室長。2008年3月、法政大学大学院経営学研究科修士課程キャリアデザイン学専攻修了、MBA取得。2019年3月、中央大学大学院戦略経営研究科博士後期課程ビジネス科学専攻修了。博士(経営管理)。ダイバーシティ&インクルージョンやリーダーシップ開発をテーマとして、研究活動・教育活動・実践活動を行っている。専門は人的資源管理、キャリアデザイン。人・夢・技術グループ株式会社 社外取締役も務める。