今月から2023年卒業の学生らの就職活動が本格化した。コロナ禍でオンライン面接の機会が増え、選考フローも変化しているが、書類選考や面接を勝ち抜いて志望企業への内定を獲得するためには、「企業が応募者に求めていること」をきちんと理解しておくことが重要だ、という点に変わりはない。
そこでヒントになるのが、マッキンゼー・アンド・カンパニーの採用マネジャーを12年務めた伊賀泰代氏「いまの日本が必要としている人材像」を解説した『採用基準』(ダイヤモンド社)だ。
本稿では本書より一部を抜粋・編集し、学生時代は優秀だったのに「社会人として伸び悩む人」の典型的なパターンを紹介する。(構成/根本隼)

学生時代は優秀でも「社会人になって劣化する人」の典型的パターンとは?Photo:Adobe Stock

新卒で入社すべきか、転職で入社すべきか

 外資系コンサルティングファームの採用に関して、「新卒で入社すべきか、それとも最初に日本企業に入って実務経験を積み、留学後に転職して入るべきか」という質問をよく受けます。

 たしかに日本の大企業の多くは、社員の大半を新卒学生として採用しており、中途採用者は(以前に比べれば増えてはいますが)まだ主要な採用方法ではありません。一方、外資系企業の多くは、積極的に中途採用をしています。

 しかし、だからといって「外資系企業は後からでも入社できる」と考えるのは拙速です。採用マネジャーとして応募者に会っていると、「この人が新卒の時に受けにきていたら内定が出せたかもしれないけれど、中途採用として受けにきている今のタイミングでは、採用は難しい」と感じることもよくあります。

新卒で入った会社の影響は絶大

 特に深刻な問題は、学生の頃には自由かつ大胆に思考できていた人が、保守的な大企業で最初の職業訓練を受け、仕事のスピードや成果へのこだわり、ヒエラルキーにとらわれずに自己主張をすることや、柔軟にゼロから思考する姿勢を失ってしまう場合があることです。

 社会人としての最初の訓練を受ける場所の影響は絶大で、一定の行動様式をすり込まれてしまうと、後から矯正することは容易ではありません。

 しかもひとつしか職場を知らない本人は、問題意識さえもっておらず、面接において自分が「立派な社会人」ではなく、「極めて保守的な組織の構成員」と見えていることにも気がつきません。

 たとえば、日本の大企業で育った人は礼儀作法が行き届いています。冬には、受付が見える場所に来る前にコートを脱ぐし、面接室では立ったまま、面接担当者が来るのを待っている候補者もいます。名刺交換の際、いくら気をつけていてもこちらの名刺より下から自分の名刺を滑り込ませてくる技には感心させられます。

ヒエラルキーに従順な人は採用しづらい

 しかしこういった「目上の人に対して、どう振る舞うべきか」をたたき込まれている人の中には、「上司の意見には反論せずに従うべき」とか、「立場を考えて発言すべき」などという(その企業の)常識も併せて身につけてしまっている人がおり、礼儀だけではなく議論にもヒエラルキーをもち込みがちです。

 そうなると面接で議論をしていても、面接担当者の意見を否定することができなかったり、相手が望む答えを探ろうとするなど、ヒエラルキーを排してトコトン議論することが求められる仕事には、適性がなくなってしまいます。

 また大企業では、黒字部門の利益で赤字部門を維持することができるため、社会人になってからずっと赤字部門で働いているという人もいます。そんな中で、「利益を出すこと=コスト削減をすること」などという斜陽産業における常識を身につけてしまうと、急成長する事業分野や新興国でのビジネス展開を率いるリーダーになることは困難です。

 公務員組織で育てられた人の中にも、前例のないこと、法律で禁止されていることに関しては、完全に思考停止となってしまい、何ひとつ考えられなくなってしまう人もいます。

「社会人になって劣化するリスク」を甘く見てはいけない

 もちろんマッキンゼーにも、保守的な大企業から中途採用で入社する人はたくさんいます。しかし彼らは、たまたま伸び盛りの事業部門に配属されていたり、直属の上司が個人的にヒエラルキーを排して優れたリーダーシップを発揮していたりと、偶然の幸運に恵まれたというケースも多いのです。

 私の場合も、入社直後に証券業界がバブル期に突入し、新人も含め、想定の何倍も大きな規模の仕事を手がける機会に恵まれたことが、成長の源泉となりました。

 しかし一般的には、辞令によって配属が決定され、「石の上にも三年」などと言って、実力にかかわらずすべての新人に下積みを求める組織では、成長の可能性とスピードは運と偶然に大きく依存してしまいます。

「優秀な学生だったのに、こうなってしまうと採用は難しい」と感じられる候補者に会うのはつらいことです。これから社会人になる人は、世界から見て周回遅れの常識やスピード感を、社会人としての基礎をつくるべき最初の数年間に身につけてしまうリスクも、決して甘く見ないほうがいいでしょう。

(本稿は、『採用基準』のP.82~85より抜粋・編集したものです。)