時代や環境変化の荒波を乗り越え、永続する強い会社を築くためには、どうすればいいのか? 会社を良くするのも、ダメにするのも、それは経営トップのあり方にかかっている――。
前著『戦略参謀の仕事』で経営トップへの登竜門として参謀役になることを説いた事業再生請負人が、初めて経営トップに向けて書いた骨太の経営論『経営トップの仕事 戦略参謀の改革現場から50のアドバイス』(稲田将人著)がダイヤモンド社から発売。特別編としてお届けする対談形式の第9回。対談のゲストは、元豊田自動織機代表取締役社長・会長の磯谷智生氏。トヨタ生産方式の生みの親・大野耐一氏から指導された磯谷氏が振り返るトヨタの強さの秘訣とは? 好評連載のバックナンバーはこちらからどうぞ。

トヨタの事業体としての強さの源泉とは?Photo: Adobe Stock

伸びる人材か、そうでないかは
宿題を出してみればわかる

トヨタの事業体としての強さの源泉とは?磯谷智生(いそがい・ちせい)
1929年愛知県生まれ。1953年名古屋大学工学部機械科卒業、同年、株式会社豊田自動織機製作所(現株式会社豊田自動織機)に入社、主に生産技術畑を歩む。課長時代から20数年間、自動車事業部にて大野耐一氏による直接の指導を仰ぐ。1978年取締役。1993年代表取締役社長に就任。その後、会長職に就任後2001年から相談役に就任。公職として1999年経済団体連合会常任理事、社団法人発明協会常任理事、社団法人中部生産性本部副会長、社団法人日本繊維機械協会副会長などを歴任。2002年大府商工会議所初代会頭、2004年大府商工会議所顧問に就任。1994年藍綬褒章、2001年勲二等瑞宝章受賞。

編集部 最後に、若い読者のための質問をさせていただきたいと思います。まず、磯谷さんのこれまでのご経験から、順調に成長していくビジネスパーソンと、そうでない人を見分けられるポイントみたいなものは、あるのでしょうか?

磯谷智生(以下、磯谷) それは、宿題を出してみればすぐにわかる。「ここまでよくやってくれたな、すごいな」と感心するものを返してくる人は、やはり優秀だね。一方、そうではない人は、詰めの甘い部分があったりする。また、ちょっと質問してみれば「なぜなぜ5回」をやっているかどうかは、すぐわかる。資料のつくり方ひとつを見てもわかるね。

編集部 そこには地頭の良さっていうのも、ベースとしてはあるのでしょうか?

磯谷 いや、そうではない。それよりも、言われたことを、どれだけ「しっかり、しつこく」やれるかの違いだけではないかと思う。

編集部 つまり、こちらの要求した以上の答えを返してくるということでしょうか。

磯谷 そう。ここまでもやってくれたのかと。しかも、こんなに速く、そしてここまで細かいところまで見ているのかと。

稲田将人(以下、稲田) まず当人の、価値観ありきの話ではないでしょうか。そしてここは、仕事のスピードと質を大事にしているかという点になりますね。

磯谷 結果として、こちらが感動するような内容を返してくる人は、力をつけていくね。

稲田 「感動」がキーワードになってきますね。

磯谷 そうだね。松下幸之助さんが、素直さが大事だと言っておられるけど、素直に愚直にやるかどうかではないかな。

稲田 私の経験からも台頭してくる人は、素直で、地道な努力を愚直に続ける人です。ズルい手を使う浅知恵ばかりに頭を使う輩を見かけますが、こういう人は、えてして仕事の腕を磨かないため、本人は賢く振舞っているつもりでも結果的には外されて、やがていなくなっていきます。

 ワンマントップ自身の主観が、まだ人事に強く反映されている企業だと、点取り指向の人材や考える訓練が不十分な気合いだけの人材、そしてイエスマンなどが上にきている場合があります。しかし、その時のトップの受けが良く、登用されても、最終的には彼らは企業に大きな迷惑をかける存在になることがあります。

 一方、20代、30代の若い子を指導していても、「たぶん役員まで行くだろうな」という人は、なんとなくわかります。地道に力をつけた人は、仮にその企業での処遇が適切になされなくても、別の会社に移ったあとに開花して、成功していきますね。