【事例:逗子市デマンド型乗合タクシーサービス】人も街も年老いていく。持続可能な事業モデルをどう構築するか

コロナ禍を引き合いに出すまでもなく、世界はこれまでに体験したことのないような大きな変化に直面している。企業は、そうした変化に対応して事業の在り方を変えていくことが求められている。日本国内に限っていえば、もう一つの変化・傾向が見逃せない。1990年代から指摘されている「少子高齢化」の問題だ。近年のさまざまな変化と相まって、その内実はより複雑になってきている。ここでは、それに伴い表出した課題の解決に取り組んでいる神奈川県逗子市の事例を、最近発刊された『パワー・オブ・トラスト』(ダイヤモンド社)から引用して紹介する。(ダイヤモンド社出版編集部)

変化に対応した「“人間”中心の共創アプローチ」

 2021年7月3日午前8時ごろ、4日間にわたり降り続いた激しい雨の影響で、横浜横須賀道路の逗子インターチェンジの、のり面が不安定化し、ついに崩壊。土砂崩れとなって、たまたま通りかかった1台の車が巻き込まれるという事故が起きた。

 土砂崩れが発生した逗子インターチェンジは1980年に開通している。その後改修を繰り返しつつも、約40年前に開発された基盤を継続して使用している。開通の少し前まで、日本は高度経済成長期にあり、国策によるニュータウンが都心部郊外に造成され、ドーナツ化現象というような言葉が生まれた。逗子市も郊外都市として、山を切り崩して土地を開き、ニュータウンが造成された。当時は車での移動が一般的であり、逗子インターチェンジは交通の要衝として、地域の人々の生活を支えてきた。

 しかし、半世紀近い時が経ち、人も街も年を取った。

 車中心の生活は所得の低下や高齢者の免許返納という内外環境の変化により、車を使わない新しい生活への転換を迫られている。高度成長期に建設された都市のインフラは老朽化しており、災害に強い新しい都市基盤を構築しなければならない。また、いきすぎた宅地造成は自然との調和を崩し、今回のような大雨による深刻な被害の発生を助長することになってしまっている。逗子のみならず、こうした状況の自治体は全国に数多く存在している。いままさに、都市は新たに生まれ変わる必要に迫られているのだ。

 じつは逗子市では、土砂崩れが起きる数年前から、そうした取り組みに着手していた。その一つが、「デマンド型乗合タクシーサービス」である。自治体の取り組みではあるが、企業の事業モデルの転換という視点でも参考になるコンセプトが背景にある。それが、「“人間”中心の共創アプローチ」である。