新たな時代に突入する企業経営。そこで「パーパス」はどのような意味をもってくるのか

最近「パーパス(purpose)」という言葉をよく見かけないだろうか。2000年代前半から欧州企業などで語られ始め、日本でもここ数年パーパスを題材にした書籍が多数刊行されている。国内メディアでパーパスを取り上げた記事掲載数を見ても、19年以降急激に増加傾向であり、パーパスブームともいえる。このパーパスとは何なのだろうか。パーパスを策定することで企業にはどのようなメリットがあるのか。その背景にある時代の流れと合わせて、最近発刊された『パワー・オブ・トラスト』(ダイヤモンド社)から引用して紹介する。(ダイヤモンド社出版編集部)

「三方よし」と重複するパーパスの考え方

 パーパスは、日本語では「存在意義」あるいは「存在目的」と訳されることが多い。これまでも企業は、ミッション、ビジョンあるいは経営理念といった呼称で、企業として目指すべき姿を示してきた。また、それを実現するための価値観や行動、企業文化を示すものとしてバリューや行動指針を定めていることもある。それらとの違いはどこにあるのだろうか。

 整理すると、ビジョンが“Where”(ある時点で目指す到達点)、ミッションが“What”(到達点に向けて実現すべき使命)、バリューが“How”(ビジョンやミッションを実現していく際に重視する価値観)を示すのに対し、パーパスは“Why”(自分たちが社会に存在し、前述の3つに取り組む理由)という、企業経営の土台となる意義・目的を問うものである(図表1)。

 実はこのパーパスは、日本企業に古くから根付いている、ある考えと重複する部分が多い。それは、近江商人の商売の理念とされる「三方よし」(売り手よし、買い手よし、世間よし)である。特に重要なのが3番目の「世間よし」で、これはまさに社会貢献への意志である。「三方よし」を現代的に解釈すると、地球環境をも含めたマルチステークホルダーへの貢献であり、それらと手を組んで有機的なサイクルを生み出し続けることといえるだろう。

 もちろん、両者では異なる点もある。最大の違いは、パーパスでは「なぜ我々は存在するのか」「なぜ我々でなければいけないのか」という、言わば「自社らしさ」が求められている点だ。パーパスを考える時に、ややもすると社会からの要請という外的なニーズにばかり目が向きがちになる。しかし、SDGs、ESG、サステナビリティといった言葉が当たり前になるなかで、どの企業も創出すべき社会価値や、どの企業が掲げても変わらない抽象的な意義では、いずれ違いが見えなくなる。

「誰が掲げても同じ」からさらに突き詰めた結果として残る独自性、他ではない自社が存在する理由、つまりは、自社と外部との信頼関係を見つめ直す観点が、パーパスには込められているのである。