DX狂騒曲#3Photo:Erik Isakson/gettyimages

現場に流れる案件はどれを見てもDX絡みばかりの今。でも、そもそもDXってなんだったっけ?どうして今なの?特集『企業・ITベンダー・コンサル…DX狂騒曲 天国と地獄』(全14回)の#3では、そんな根源的な問いをIT業界インサイダーたちが議論した。「大企業での全社共通化DXは幻想」「スタートアップに対抗するためにDXしても勝てない」など厳しい指摘が飛び交った。(聞き手/ダイヤモンド編集部 鈴木洋子)

【座談会参加者】
 Henry @HighWiz 大手SIerの大規模プロジェクトのPMを経て総合コンサルへ転身
 ケビン松永 @Canary_Kun  大手SIerから独立してフリーのITコンサルやってます
 よんてんごP @yontengoP ブラックIT業界を渡り歩く病人ツイッタラー。薬を飲み忘れる
 むぎSE @MUGI1208 社内SE社畜ツイッタラー。炎上プロジェクトの遭遇率が高め
 shin @shin_ofshins ウェブとアプリに詳しいコード書く系スタートアップ経営者
 かち @kachi_saas サーバー系インフラ保守から紆余曲折を経て外資系SaaS勤務
 SW @Diamond_IT_SW コンサルからメーカー情シスに移籍した企業哀戦士

「目的とか夢がない人や会社には、DXはできないですよね」

――そもそもDX(デジタルトランスフォーメーション)って何なんでしょうね。自分も実はちゃんと分かっていないような気がしています。

Henry 既存のもうけ方やビジネスモデルが変わらないかぎりDXではないと思ってる。ただ、「変わるのがDX!」ってパワポのメッセージに書いてあっても「どれくらい変わればDXなのか?」の基準は書かれてないから、紙書類の回覧を電子ワークフローに変えるくらいの小手先の変化でDX達成!としている企業がたくさんあるんじゃないかな。

ケビン松永(ケビン) 基幹システム入れ替えがビジネスプロセスの大幅な変更に当たるので、ERPなどを入れたりすることをDXと呼んでるパターンは多いですよね。ただ、本当にビジネスプロセスを見直すのであれば、要件定義時に「この申請や決裁は、誰が起案して誰が承認するのか、その行為に意味はあるのか、この業務自体の本質は何なのか」というレベルから問い直さないと本質的なビジネスプロセスの見直しにならない。

むぎSE そういうパッケージを入れて業務フロー変えようとすると「従来のフローに合わないよ、現場回らないからちょっと嫌だ」ってはじかれたりと毛嫌いされる傾向があります……。あとは、プラットフォームを建てましょう、共通基盤を建てましょうってのも会話に出てくる頻度は高いかな。またそれやるの?って感もある。

よんてんごP(4.5P) 一般の人にDXとは何?と聞くと「デジタルがなんかやってくれる」なんですよね。現場の人とかに同じ質問をすると「デジタルで何かしらの目的とか夢をかなえる」になる。前者は他力本願だけど後者は自己実現ですよね。目的とか夢がない人や会社には、DXはできないですよね。

shin そもそもDX成功事例って、あんま世の中に出回らないから夢が描けないですよね。事例を調べても、ファミマが無人決済システム入れました的なPoC(試作開発の前段階における検証やデモ)みたいなのばっかで。ビジネスを変革しました、まで行ってない。海外事例として、AirbnbとかNetflixがよく紹介されるけど、あれは成功したスタートアップであって既存企業のDXじゃないよね。

ケビン 本当の成功事例だったら外に出ないんだろうし。例えばECの配送がものすごく速くなるとか、社内の決裁3日かかっていたのが3時間で終わるとか、既存のビジネスの延長だけどスピードがめちゃ速くなることもDX感じますよね。裏にはデータがものすごい勢いで駆け抜ける新しいシステムが必要だったはずで、既存のシステムではできなかったと思うんですけどね。

Henry 顧客提供価値が上がるか上がらないかは重要なポイントですね。既存の仕組みの延長であっても、高度化による効率化などの結果として提供できる価値が大きく変わるならそれは変革といえるので。

shin Amazonの翌日配送とかまさにそうだよね。あれは、事前に配送スピードがビジネス成功のキーファクターだと把握していて、明確なゴール設定をしたからこそできたことだと思う。「DXしなきゃー。でも何しようか?」と悩んでる状態からそこに至るとは思えない。

むぎSE でもさ、Amazonが見いだした「配送スピードアップ」みたいなキーファクターが、普通の会社には見いだせないし分からないんですよね。まずこれをやるぞってふうに決断しないと大改革はできないのかな。本業での稼ぎを新しいことにたくさん投資できないし。

ケビン 事業が一つ二つぐらいであれば事業を伸ばすためのキーファクターは分かりやすいけど、事業がたくさんあるコングロマリットだと、全社で共通のファクターなんてない。多分解決点は1万個くらいあって、全社共通のDXプロジェクト一個で一律に解決できる状態じゃないと思うんですね。

――DXは世にあふれています。でも、本来の「事業を変革する」という目的さえあれば、おのずと絞り込まれるような気がするのですが。

shin いろんな会社が「全社共通が正義、全社で一元化してDXをやらなきゃならない」という呪いにかかってますけど、それは幻想。