コロナ禍が続く中、サプライチェーン(SC)の混乱が頻発している。労働力不足の問題も、依然として大きな障害となって立ちはだかっている。経済の「血管」であり、貴重な社会インフラである物流を維持するためにどうすべきか。日本を代表する老舗物流業界紙「カーゴニュース」の西村旦編集長に聞いた。

――コロナ禍が続く中でサプライチェーン(SC)の混乱が全世界的に続いています。

西村編集長(以下、西村) 国際貿易の根幹を担っている海上コンテナ物流の混乱が続いており、収束する気配がなかなか見えてきません。専門家の見通しでは、少なくとも今年いっぱいは混乱が続くとの予想が支配的です。混乱の原因には、さまざまな要素が絡み合っていますが、一言で言えば需要の急回復に輸送スペースの供給が追い付かず、港湾などSCの各所で“目詰まり”を起こしているということです。供給不足による海上運賃や航空運賃の高止まりが続いており、物流費の高騰がインフレを促す要因にもなっています。

 物流はよく人体における血管に例えられますが、製造・販売といった経済活動は物流という“血流”が滞りなく流れることによって初めて正常に機能します。今回、大手ファストフードチェーンのフライドポテトが販売中止に追い込まれるというニュースもあって、背後にある物流の存在が広く注目されました。メーカーをはじめとする企業経営においても、いかにSC上のリスクを取り除き、円滑で持続可能な物流を確保するかが、経営上の優先課題になってきていると思います。

「目の前」にある物流の危機とは

――物流の持続可能性を阻むリスクにはどのようなものがあるでしょうか。

西村 旦(にしむら・たん)
「カーゴニュース」編集長

1992年カーゴ・ジャパン入社。「カーゴニュース」編集部記者として、物流事業者、荷主企業、関係官庁などを幅広く担当。2011年代表取締役社長兼編集局長に就任。同年、幅広い交通分野での物流振興を目的として創設され、優良な論文などを顕彰する「住田物流奨励賞」(第4回)を受賞。

西村 幾つかありますが、国内における“目の前にある危機”として迫ってきているのがドライバー不足に象徴される労働力不足です。巷間、「2024年問題」と呼ばれていますが、2024年4月からドライバーの時間外労働に罰則付きの上限規制が課されます。働き方改革の一環ですが、ただでさえドライバーの数が足りないにもかかわらず、ドライバー1人当たりの労働時間を減らさざるを得ないことを意味します。このため、関東~九州間といった長距離輸送を中心に、現在の物流体系を大きく見直していく必要に迫られます。例えば、これまで1人のドライバーで運んでいたところを2人に増やすルートも出てきますので、当然、コストも増えることになります。

 地震や台風、大雪といった自然災害や新型コロナなど感染症のパンデミックも物流の持続可能性を阻害するリスクとなります。特に近年は、毎年のように大きな自然災害が起きていますので、災害発生時にも物流網を維持できる備えをしておく必要があります。具体的には在庫を消費地に近い場所に分散化させておくことや、輸送手段をトラックだけでなく鉄道や海運にも多重化しておくことなどが考えられます。「リダンダンシー(冗長性)」という言葉がありますが、平常時から良い意味での〝ムダ〟をどれだけ許容できるかが経営戦略上、重要になってきます。

 そして、カーボンニュートラルに代表される環境対応も、物流の持続可能性におけるリスクになり得ます。今後、物流活動における環境面でのコンプライアンスがますます厳しくなっていく中で、地球環境に優しくない運び方は社会から許されない時代が間違いなくやって来ます。環境対応力が、物流事業者の競争力を左右する重要な要素になってくるということです。