メーカー(製造業)の仕事は、自動車、電機、食品……などの商品・サービスをつくって売ることですが、お客さまに満足いただけるものを過不足なくつくって遅滞なく届けるために、メーカーにはさまざまな機能があります。たとえば日頃よく耳にする「在庫」の目的や種類には、どのようなものがあるのか。メーカーを目指す人ならきっちり知っておきたい基本について、書籍『全図解メーカーの仕事 需要予測・商品開発・在庫管理・生産管理・ロジスティクスのしくみ』から紹介していきます。

製品や材料が必要なタイミングと供給されるタイミングが異なる場合、あらかじめ必要量を用意して保管しておきます。これを「在庫」とよびます。

在庫は管理に費用がかかるため、持たないに越したことはないのですが、ビジネス上は不可欠です。顧客が欲しいタイミングで商品がなければ販売機会を失うだけでなく、顧客が生産者だった場合は、顧客の製造ラインをストップさせてしまいます。自社で生産する場合も同様です。

また、在庫は多すぎても問題です。在庫を用意しても、販売できなければ、お金を回収し利益を得ることはできません。在庫を多く持てば品切れのリスクは下がりますが、逆に製品や材料が残ってしまうリスクが高くなります。

たとえば、食品は消費期限が切れてしまうと、販売することはできません。また流行の移り変わりが早いアパレル製品や化粧品なども、旬な時期を過ぎて売れ残ると、販売が難しくなります。ブランドイメージを損なわないために、売れ残った製品を値引き販売することもできず、廃棄となるケースも少なくありません。多すぎず少なすぎず、適正な量の在庫で運用することが重要です(図11-1)。

メーカーに就職したい人なら知っておきたい! さまざまな「在庫」の種類図表11-1 在庫が多い場合/少ない場合のメリットとデメリット
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在庫の種類

メーカーでは生産の流れに沿って、各ポイントで在庫が発生し、次のような種類があります(図11-2)。

メーカーに就職したい人なら知っておきたい! さまざまな「在庫」の種類図11-2 製品が顧客までに届くまでの流れと在庫形態
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原材料在庫:加工前のパーツや資材。鋼板、塗料などのほか、製品を梱包するための小箱やラベルも含まれる。

仕掛品在庫:最終製品になる前の、加工途中の在庫。この状態でいったん製造を止めておいて、需要に合わせて製品化するといった調整も行われる。これにより、在庫金額を抑えつつ、販売機会の損失も同時に抑えやすくなる。原材料や仕掛品の在庫は、工場内だけでなく、外部倉庫に保管される場合もある。

製品(商品)在庫:販売されるのを待っている在庫。工場だけでなく、顧客に短納期で配送するために、物流センターに在庫をもつこともある。店舗にある在庫は、売り場に置く店頭在庫と、店舗の倉庫などに置くバックヤード在庫に分ける場合もある。

備品・消耗品:生産活動をするうえで必要な資材。生産機械のメンテナンスや修理などで使用される、スペアパーツや工作機械の刃、潤滑油など。これらの管理を行うことで、生産機械の維持コストの削減や、予期せぬ生産停止を防ぐことができる。

輸送中在庫:航空機、船、トラックで輸送中の状態にある在庫。航空機で輸送すると、船よりも輸送期間は短くなり輸送中在庫は少なくなるが、コストは高くなる。モーダルシフトとよばれる、貨物輸送を自動車から環境負荷の小さい鉄道や船舶の利用に転換する取り組みもある。