管理職は「自分の力」ではなく、「メンバーの力」で結果を出すのが仕事。それはまるで「合気道」のようなものです。管理職自身は「力」を抜いて、メンバーに上手に「技」をかけて、彼らがうちに秘めている「力」を最大限に引き出す。そんな仕事ができる人だけが、リモート時代にも生き残る「課長2.0」へと進化できるのです。本連載では、ソフトバンクの元敏腕マネージャーとして知られる前田鎌利さんの最新刊『課長2.0』を抜粋しながら、これからの時代に管理職に求められる「思考法」「スタンス」「ノウハウ」をお伝えしていきます。

オンライン会議で「相手の目」を見ながら話してはいけない理由写真はイメージです。Photo: Adobe Stock

「オンライン会議は不完全である」
という認識を忘れてはならない

 会議はリアルで行うのがベスト──。

 私は、そう考えています。なぜなら、リアル会議はオンライン会議に比べて、メンバー間で交わされる情報量が圧倒的に多いからです。

 メンバーが同じ空間に居合わせて会議をするときに流通する情報は「言葉」だけではありません。表情や仕草、声音、さらには場の空気など非言語的な情報のほうが圧倒的に多いのが現実。そして、「言葉」と「非言語的な情報」が合わさって、はじめて実のある議論が成立し、結論を腹に落とすことができるのです。

 なかでも、場の空気を感じることは、人間がコミュニケーションを取るうえでは非常に重要です。それは、オンライン会議を経験したら一発でわかることです。相手の顔も見えるし、声も聞こえますから、非言語的情報もやりとりしているはずなのに、それでも何かが足りない。本当に意思疎通ができたのか不安が残るのです。これはおそらく、普段、私たちが場の空気から微妙なニュアンスを感じ取りながらコミュニケーションを行っているからです。

 そして、真に腹落ちのできるディスカッションを経た意思決定でなければ、その意思決定に基づくメンバーのアクションの質も落ちます。ですから、チームにとって最高の意思決定の場である「定例会議」は、できればリアルで開催するのが望ましいと、私は思っています。

 とはいえ、リモート環境下ではそういうわけにもいきません。

 そこで、私ならば、例えば、月に最低でも1~2回は全員が集まるようにするなど、「リアル会議」の場を確保することで、「オンライン会議」の情報不足というデメリットを少しでもカバーしようとすると思いますが、実際には、「オンライン会議」を主体に回さざるを得なくなるでしょう。

 その際に重要なのは、「オンライン会議」は不完全であるという認識を忘れないことです。不完全だという認識があればこそ、それを補う工夫をしようと思うからです。そして、私は、「オンライン会議」では下図のような「10のルール」を参加者で共有するようにしています。

オンライン会議で「相手の目」を見ながら話してはいけない理由

 なお、私は「リアル会議」をやりながら、リモート環境下にある数人のメンバーだけ「オンライン参加」するという形は、なるべく避けたほうがよいと考えています(もちろん、やむを得ない場合はありますが……)。

 なぜなら、「リアル」と「オンライン」ではコミュニケーション環境が違いすぎるために、「オンライン参加者」が取り残される展開になることが多いからです。

 例えば、誰かの発言に、リアル参加者は瞬時で反応できますが、オンライン参加者にはそれができません。ほんの0.1秒の遅れであっても、それがコミュニケーションに与える影響は大きいものです。瞬時に反応できるリアル参加者だけで盛り上がって、オンライン参加者はそれをPC画面で眺めているようなことになりがちなのです。

 そのようなことを避けるためには、リアル会議をやるときには全員が会議室に集まるようにして、それができない場合には、全員がオンラインで参加するほうが賢明だと言えるでしょう。

オンライン会議で「相手の目」を見ながら話してはいけない理由前田鎌利(まえだ・かまり)
1973年福井県生まれ。東京学芸大学で書道を専攻(現在は、書家として活動)。卒業後、携帯電話販売会社に就職。2000年にジェイフォンに転職して以降、ボーダフォン、ソフトバンクモバイル株式会社(現ソフトバンク株式会社)と17年にわたり移動体通信事業に従事。その間、営業現場、管理部門、省庁と折衝する渉外部門、経営企画部門など、さまざまなセクションでマネージャーとして経験を積む。2010年にソフトバンクアカデミア第1期生に選考され、事業プレゼンで第1位を獲得。孫正義社長に直接プレゼンして数多くの事業提案を承認され、ソフトバンク子会社の社外取締役をはじめ、社内外の複数の事業のマネジメントを託される。それぞれのオフィスは別の場所にあるため、必然的にリモート・マネジメントを行わざるを得ない状況に立たされる。それまでの管理職としての経験を総動員して、リモート・マネジメントの技術を磨き上げ、さまざまな実績を残した。2013年12月にソフトバンクを退社。独立後、プレゼンテーションクリエイターとして活躍するとともに、『社内プレゼンの資料作成術』『プレゼン資料のデザイン図鑑』『課長2.0』(ダイヤモンド社)などを刊行。年間200社を超える企業においてプレゼン・会議術・中間管理職向けの研修やコンサルティングを実施している。また、一般社団法人プレゼンテーション協会代表理事、情報経営イノベーション専門職大学客員教授、サイバー大学客員講師なども務