メーカー(製造業)の仕事は、自動車、電機、食品……などの商品・サービスをつくって売ることですが、お客さまに満足いただけるものを過不足なくつくって遅滞なく届けるために、メーカーにはさまざまな機能があります。たとえば「物流」を包括する「ロジスティクス」という言葉の語源や歴史についてはご存じでしょうか。メーカーを目指す人なら知っておきたい基本について、書籍『全図解メーカーの仕事 需要予測・商品開発・在庫管理・生産管理・ロジスティクスのしくみ』から紹介していきます。

「物流」を包含する概念である「ロジスティクス」という用語の歴史は古く、19世紀後半のフランスにおいて兵員と物資の保管・輸送を指す軍事用語「Logistique(ロジスティークと発音)」として用いられたのが起源とされます。その語源については、兵員と物資の駐屯する場所に設営する「Loger(ロッジ)」に由来するとする説と、「数学に長けている」という意味のギリシャ語の形容詞「Logistikos(ロジスティコス)」に由来するとする説とがあります。この軍事用語は日本に輸入された際に「兵站(へいたん)」と訳されましたが、その後ビジネスの世界に応用される過程で「ロジスティクス」と原語に近いよび方が定着しました。

物流のあり方は、科学技術の進歩とともに変容してきました(図15-2)。

メーカーに就職したい人なら知っておきたい!「ロジスティクス」の語源や歴史図15-2 ロジスティクスの変遷
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産業革命以前のヨーロッパにおける海上輸送は、大型の帆船が主役でした。しかし19世紀の産業革命の蒸気機関の実用化による蒸気船の登場で、天候に左右されることなく大量の物資を計画的に運ぶことができるようになりました。また、蒸気機関は内陸輸送手段にも実装され、大量輸送を可能にしたといわれます。

20世紀中ごろには、輸送機材が標準化されたことにより、「荷役の自動化」が促進されました。それまでの物流においては、汽船や鉄道で大量に物資を運ぶことができても、その積み荷下ろしは人海戦術で行われ、多くの人手と時間がかかっていました。その作業は作業員の熟練を要するものでしたが、フォークリフトと用途に応じて規格化されたコンテナの発明により、大量輸送の荷積みや荷下ろしの時間が大幅に短縮されました。このことで、コンテナボックスを開梱して中の荷物を取り出すことなく、船から鉄道、トレーラーに積み替えることが可能になり、習熟を要する積み替え作業が不要になったのです。物流を海陸一貫輸送としてシームレスにつなぐことが可能になり、輸送途中での盗難の心配もなくなることで、貿易がより手軽で身近なしくみとして世界中に広がりました。

20世紀後半に入ると、電算技術の進化に伴い「管理・処理のシステム化」が促進されました。それまで台帳などを使って人手に頼っていた「もの」の移動に関する情報の管理がWMS(Warehouse Management System:物流管理システム)やTMS(Transportation Management System:輸配送管理システム)などの物流管理システムに置き換えられていったのです。WMSとは、倉庫への貨物、資材、製品の入出荷管理や在庫管理などの機能を担うシステムです。TMSとは、倉庫から出荷された荷物を運ぶトラックなどの配車計画や運行管理、荷物の追跡などの管理を担うシステムです。

この時期、物流の実作業だけでなく、在庫の管理にも技術革新が起こりました。国際貿易での通関、関税などの手続きの電子化です。このように、20世紀には物流のデジタル化が進みました。

これからの物流

20世紀末ごろから21世紀にかけて特筆すべきは、情報通信技術の飛躍的な進歩です。これは物流のデジタル化をさらに促進させるものと考えられます。筆頭がAIやロボットを活用した「物流の装置産業化」です。この動きは物流業界において「ロジスティクス4.0」ともよばれ、ビジネスの現場ではすでにロボットがビッグデータを活用して、より高速かつ確実にものを運ぶしくみが始まっています。

また、デジタル化の促進に伴い、グローバルでの大量輸送が低いコストで安全に行えるようになり、ビジネスのあり方を変容させつつあります。物流は産業構造の変化に大きな役割を果たしてきたといえるでしょう。メーカーのビジネスを考えるうえでも、物流分野の変化を察知することは重要です。