12月19~20日、2012年最後の金融政策決定会合で日本銀行は、資産買い入れ基金を91兆円から101兆円に10兆円増額、追加緩和に踏み切った。

 だが、足元の景気の下振れリスクは低下しており、追加緩和の必要性は低かった。10月の生産統計は下げ止まり、消費もエコカー補助金終了の反動減から持ち直している。12月の日銀短観では、設備投資計画が大企業全産業で予想外の上方修正、「日銀が最も注視してきた設備投資の先送りリスクが払拭された」(岩下真理・SMBC日興証券債券ストラテジスト)。

 会合直前、日銀執行部には、13年1月の展望レポート中間レビューで景気見通しを点検するまで基金増額は見送る、というコンセンサスが醸成されていた。

 にもかかわらず今回、基金を増額したのは、12月18日の安倍晋三・自民党総裁と白川方明・日銀総裁の初会談の影響や、政治や市場からの緩和圧力が高まっていたのに加え、やはり26日にも発足予定の新政権の怒りを買うことを恐れたものとみられる。

日銀が年内の追加緩和を決定<br />「物価目標2%要求」の誤解安倍総裁は物価目標2%への“変更”を要請したとされるが、日銀は新政権発足後の1月会合まで追加緩和を先送りしたかったとみられる
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 さらに日銀は、かねて「市場との対話が不得手」と批判される弱点を今回も露呈した。会合後の声明文では、安倍総裁からの「2%の物価目標要求」を受け、「検討を行い、次回会合で報告するよう執行部に指示した」と明記。だが実は、日銀は消費者物価の前年比+2%以下という目標を12年2月からとうに掲げているのだ。

 日銀は現在の経済情勢から、短期間で2%を実現することは現実的でないとの判断の下、中長期目標を2%に設定しながらも「当面は1%を目指す」としてきた。

 その説明自体は真っ当だが、1%の部分ばかりに言及してきたが故に、市場でも消極的な1%という数字が独り歩きしている。安倍総裁の要求は、市場との対話がうまくいっていない証左だ。