制作のプロフェッショナルが教えてくれた、「研修動画」に絶対欠かせないもの

コロナ禍で、オンラインによる研修やセミナーが増え続けている。テレワーク中の従業員が、eラーニングの「動画」をオンデマンドで提供されることも多いようだ。そうしたなか、創業から18年で、世界・日本を代表する2000社以上の、計5万本を超えるBtoB動画を制作し、配信支援を行っている企業がある――株式会社ヒューマンセントリックス。起業時のエピソードとともに、BtoB動画に特化する理由や動画制作のテクニックなどを代表取締役の中村寛治さんに語っていただいた。(ダイヤモンド社 人材開発編集部)

BtoB動画の最大の魅力は、その「熱量」にある

 2004年6月に福岡県(福岡市早良区百道浜)で創業されたヒューマンセントリックス。同社の沿革によれば、翌7月にeラーニングの動画制作を始めているが、まず、起業時のことを中村さんに振り返ってもらった。

中村 当社の創業年(2004年)に、経済産業省をはじめとした行政機関が、若者の能力向上や就業促進を図るためのプロジェクトを開始しました。くしくも、創業の地である福岡県がそのモデル地域になり、民間の教育企業が「アジアセールスパーソン育成塾」という人材育成プロジェクトを受託したのです。そして、縁があって、起業したばかりの私に声がかかり、そのプロデューサーに任命されました。100名を対象とした集合研修と2000名を対象としたeラーニング――私のミッションは、限られたコストで、質の高いコンテンツを創ること。「アジアセールスパーソン育成塾」というテーマなので、香港・ソウル・台北・上海で活躍している、福岡出身の各国5人・合計20名のセールスパーソンに私自身でインタビューを行い、カメラに収めていきました。「営業活動で大切なことは?」「アジアでの成功の秘訣は?」といったいくつかのテーマでお話しいただき、その要点をまとめたパワーポイント画像とインタビュー映像を組み合わせて、30分×20本・計10時間の研修動画を完成させたのです。結果、経産省にも自治体の方にも喜ばれ、「中村さん、どうして、インタビューの内容と資料がこんなに合うんですか?」と。話に合わせてパワーポイントの資料を作ったので一致しているのは当然でした。

 アジアで活躍している方の「熱量」を大切にして、パワーポイント内の文字を動画に合わせてフォーカスしたり、動かしたり……。この制作体験から、プレゼンテーション動画の価値を実感し、BtoB動画の最大の魅力は「熱量」だと確信しました。

制作のプロフェッショナルが教えてくれた、「研修動画」に絶対欠かせないもの

中村寛治 (Kanji NAKAMURA)

株式会社ヒューマンセントリックス 代表取締役

福岡県北九州市出身。1989年より日本サン・マイクロシステムズの営業として活動。1996年、日本オラクルに移籍し、九州・山口・沖縄の責任者である西部支社長を経て、2004年6月、「人中心」という企業理念を社名にしたヒューマンセントリックスを創業。外資系IT企業の営業現場で培ったノウハウをベースに、企業向け「動画プレゼンテーション」というこれまでになかったサービスを開始した。BtoB企業向け動画のパイオニアとして、大手企業を中心に2000社以上、5万本以上の動画の企画・制作に携わる。

 順風を受けて、「ヒューマンセントリックス号」は福岡から船出したものの、創業の頃は多くの試行錯誤があったという。令和のいまの時代では考えられない人も多いだろうが、当時はまだ、ビジネスにおける「動画」は当たり前のものではなかった。

中村 およそ18年前のビジネス用途の「動画」は、制作にお金がかかり、作品的な色合いを持ち、制作者も、発注した企業も特別視していました。前職で主に九州地方の営業責任者だった私は、少人数で幅広く仕事を続けるうえで、「動画」のインパクトと必要性を強く感じていました。動画とオンライン配信をうまく使えば、営業活動がスムーズになるはずだ、と。ただ、当時は広告代理店が動画制作を請け負うことが多く、撮影も大人数で行っていました。発注元の私の名刺交換は広告代理店の方で止まってしまい、制作現場の方までたどり着かない「多重下請け構造」でした。また、当時の動画はパッケージメディアで配布されるかたちが主流で、「(広告代理店に)動画のCDを500枚用意してください」とお願いすれば、「複製代が○円です。納期には□日間かかります」と。「え?複製にそんなにお金がかかるんですか?」と問えば、「著作権もあって……」と。営業ツールとしての動画の価値を私は感じながら、そのコストと手間に違和感を覚えました。