「離職率が高い=悪いこと」では必ずしもない固定概念を捨て、人的資本の強化に戦略的に取り組まなければ、銀行も企業価値は上げられない(写真はイメージです) Photo:123RF

注視されているのはトップの選任体制だけ
人的資本を軽視する銀行ガバナンスの脆弱

 数字で費用対効果が計測できないことへの対処に尻込みし、できない賢い理由を並べて何も手を打たずに放置することは、どの組織でも起こり得る「病」と言っていい。

 その典型例が、銀行業界における人材育成だ。知的産業を標榜しながら、銀行は人的資本について必ずしも重視してこなかった。

 それは、銀行を監督する立場にある金融庁も同様だ。金融庁は金融検査マニュアルに基づき、銀行に対して厳格な検査を続けてきた。だが、銀行の人的資本への投資に関しては、まるで注意を払ってこなかった。

 世界的なコーポレートガバナンス(企業統治)重視の流れにより、銀行業界でもさすがに、経営トップの選任体制だけは整えられてきた。指名委員会が設置されているかどうかはもちろん、指名委員会のメンバーに社外取締役が入っているか、またその比率がどのくらいかといったことにも関心が向けられている。

 しかし、経営トップ以外の人材のサクセッションプラン(後継者育成計画)については、十分だったとはいえない。本来、システムや資産運用、投資戦略など、専門性が問われる分野については特に、人材育成は非常に大切なことなのに、だ。

 この銀行業界の課題が最悪の形で露呈したのが、みずほフィナンシャルグループ(FG)だった。次ページでは、みずほFGの人事の失敗から見る銀行業界の人材戦略の脆弱さを振り返るとともに、銀行が人的資本を今こそ強化するべき理由について明かす。